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Chatwork株式会社 プロダクト本部 Director of Product Management
 大野木 達也 氏
株式会社ヤプリ プロダクト開発本部 開発企画部 部長 兼 Yappli Lite事業責任者
 小野 明彦 氏
株式会社ココペリ プロダクト戦略事業部
 長妻 充洋 氏

 DXによるビジネス変革が進む中で、製品主導型で事業を成長させていくビジネスモデルPLG (Product-led Growth)が日本でも新たに注目されている。営業主導型のSLG(Sales-led Growth)と対比されるPLGだが、実践するためにはどんな課題があり、組織としてどう取り組むべきなのだろうか。PLGを支援するPendoを導入し、PLGによって事業成長を目指すSaaS企業3社に話を聞いた。

SaaS企業の新・成長戦略「PLG」

 製品主導型で事業を成長させていくPLGだが、そもそもPLGをどう捉え、ビジネスの中でどう位置づけるべきなのだろうか。

 国内最大級のビジネスチャット「Chatwork」を核としてサービスを展開するChatworkのプロダクト本部Director of Product Managementの大野木達也氏は「PLGを導入したきっかけは、2021年に初めて中期経営計画を定めたことです」と話す。同社が中期経営計画で掲げた経営目標は、2024年に全社売上高100億円を目指すというもので、計画策定時の4倍にも上る売上を目標としているのだ。
 既にPLGのことを知っていた大野木氏は「PLGは、売上目標を達成する有効な手段の1つに違いない」と、期待を寄せてきたという。

 ノーコードでアプリを開発できるプラットフォーム「Yappli」を提供するヤプリのプロダクト開発本部開発企画部部長の小野明彦氏は「当社は2013年に創業後、一時期、人手を掛けずに製品を提供することにチャレンジしていました。今考えると、それがPLGだったのです」と語る。
 ノーコードでのアプリ開発のプラットフォームを提供し、ノーコードアプリ業界では世界で初めて上場したヤプリ。当初「Yappli」をセルフサーブ型のサービスとして成長させたいと考えていた。しかし、それをサポートする適切なソリューションが当時はなかったためにPLGを断念。営業がグロースさせるSLGによって事業を成長させてきたのである。
 そのヤプリが再びPLGに舵を切ったのは、人手に頼るSLGは労働集約型で非効率的であり、エンジニアのリソースにも限りがあるということからだ。そこにPLGを支援するプロダクトを提供するPendoを知ったことが重なった。「スモールビジネス向けのYappli Liteの立ち上げをきっかけに、Pendoを導入してPLGを実践していくことになりました」と小野氏は振り返る。

 金融機関の枠を超えたビジネスマッチングサービス「Big Advance」を提供するココペリのプロダクト戦略事業部BAプロダクトグループの長妻充洋氏は、提供するサポートとそのコストのバランスに疑問を抱いていた。

「これまでもサービスを自走させようとしてきました。サポートコストが掛かる割に売上につながっていないと感じるケースが見受けられたからです。PLGの本を読んで『やはりそうか』と腹落ちしました」と長妻氏。Pendo.io Japanの協力のもとPLGの有効性を経営トップにプレゼンテーションし、Pendoの導入を推進した。

ビジネス構造を変えて成長をドライブさせる

 3社ともPLGを導入したきっかけは異なるが、PLGで目指していることについては共通点が多い。その1つが自走型サービスの実現だ。サービスの品質を上げて、ユーザーが自分で使いこなせるようになれば、サポートに掛かる人員やコストの削減を期待できる。

 小野氏は「顧客の個々の要望に応えていくことは重要ですが、カスタマイズに対応してもYappli自体の品質が良くなるとは限りません」と指摘する。常に人の支援が必要なままでは効率化は進まない。事業を拡大しようとすると同等の人手がいることになる。
「海外進出を考えると人的コストの問題はさらに大きなものになります。PLGを推進できなければ、次のステップに踏み出せないと考えています」と小野氏。そのためにも製品のセルフサーブ型の実現を目指している。

 事業成長の手段の1つとしてPLGを位置づけるChatworkでは、すでに多くの顧客層を持っていることが有利に働く。Pendoによって実装したガイドに対する利用状況をデータで正確に把握できる。2月にPLG推進部を立ち上げて、アクティベーションでも定量的なアプローチを取るための準備が整ってきた。
 大野木氏は「我々のビジネスチャットは、元々現CEOの山本自身が開発したものです。そのため、私たちは常にプロダクト企業でありたいと考え、プロダクトビジョンやプロダクト戦略を策定しています。PLGの観点を中心に置くことで、プロダクトだけでなく組織全体の行動が事業の成長に結びつくことを期待しています」と語る。

 数年で急成長を遂げてきたココペリでは、今後はユーザーの定着率が重要になる。そこで求められるのは人的リソースを割く領域の選択と集中である。「定量的な目標を立てて施策を打つ他、成長フェーズも変わってきていますので、売上にどう効果を示したのが定量的な指標で効果を見る流れも必要です」と長妻氏。
さらに「開発リソースを充てた効果を測定ができるようになるため、プロダクト開発がどれだけ事業に貢献しているのかが見えるようになることを期待しています」と続ける。

PLGを事業の中心に据えると組織全体が変わっていく

 組織変革への期待も大きい。3社ともSaaS企業であり、創業メンバーが開発したソリューションによって成長してきた。今いるメンバーの多くは成長期に入ってから入社してきている。小野氏は「創業期とは熱量が違うのは当然です。しかし、PLGを実践することで同じようなモチベーションが生まれています」と語る。
 ヤプリでは4名のプロダクトオーナーがいるが、開発の企画案は体制面を含めて全社でオープンに議論するという。「当社にとってプロダクト開発は事業表現です。全社レベルで納得感を作り上げることが重要だと考えています」と小野氏はオープンな議論の重要性を強調する。

「プロダクトを中心に据えることでサイロ化を防ぐことができるという効果も期待できます」と語るのはChatworkの大野木氏だ。大野木氏はプロダクトを戦略的に運営するために、まだ日本ではあまり取り入れられていない Product Operations という組織も立ち上げた。
 Product Operationsチームでは、プロダクト開発全体を俯瞰してデータを見て、全体最適になるように調整をかけていく。「横串の発想がないと開発が重複する部分があったり、非効率になったりします。Product Operationsチームは、プロダクト戦略と経営戦略をリンクさせる役目も担っています」と大野木氏。プロダクト主導で考えることで、経営的な視点から開発を見ることができる。

 PLGという共通目標によって関係者の目線が揃うという効果もある。ココペリではここ数年でメンバーを急速に増員してきたが、それぞれバックボーンが異なる。「利用データが見える化されるPendoという共通のツールを通してプロダクトの品質を議論することで目線を合わせることができます」と長妻氏。
 Pendoを利用したPLGは、エンジニアと非エンジニアとの意識合わせに効果をもたらす可能性もある。長妻氏は「プロダクト開発に携わらない人でもプロダクトの指標を追えることで、一層プロダクトへの関わりが生まれます。プロダクトへの関わりを通して個々のスキルも上がってくると期待しています」と語る。

DXの効果を最大化するPLGからのアプローチ

「利用者に寄り添ったサービスを実現する」というPLGの発想は、SaaSサービスを提供しているスタートアップ企業以外にも効果をもたらす。大野木氏は「これまで感覚で捉えていたことを言語化して効率化につなげられます。ノウハウを汎用化することには大きな意味があります」と語る。
 これまでマニュアルによってアプリケーションの使い方を理解してもらってきたことを、製品の中にガイドとして組み込むことで、利用効率の改善が期待される。

Pendoのようなツールによって定量的に計測することで、利用者がどこでつまずくのかが可視化され、適切な改善措置を講じることができることも大きなメリットです」と小野氏はいう。
 独自のプラットフォームによってBtoBのビジネスを展開している企業、社内向けにツールを提供している企業などでも効果は期待できる。「問い合わせ対応を減らし、働き方改革にも貢献できるはずです」(小野氏)。
 長妻氏は「皆さんがお話されたことは本当にその通りですね。あとは、効果の最大化という点では組織や事業規模が既に大きく、利用者が多いものほど、業務改善による業務効率アップなどの効果が大きいのではないかと思います」と話す。

 PLGは徹底的に利用者の視点に立って自社のサービスやアプリケーションを継続的に見直していくことで実現される。ビジネスプロセスがITに大きく依存するようになった現代、あらゆる企業にPLGの発想が求められているのではないだろうか。

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