少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。
その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。今回は理事長の森田朗氏による、ワクチン接種における本人確認や接種履歴、副反応などモニタリングの仕組みに関する提言だ(過去16回分はこちら)。
(森田朗:NFI研究所理事長)
種々の対策にもかかわらず、新型コロナ感染症が爆発的に拡大しつつある。3度目の緊急事態宣言が発出され、このままではオリンピック、パラリンピックもすっ飛んでしまいそうだ。その中で、頼みの綱となっているのがワクチンだ。
しかし、ワクチン接種は当初の政府発表より大幅に遅れている。医療従事者の接種が終わらないうちに、高齢者への接種も始まった。基礎自治体に任されている接種については、優先順位を巡って混乱も起こっている。感染抑制を効果的に進めるためには優先順位を明確にし、多くの国民にできるだけ早く接種する方法を採用すべきだ。
迅速な状況把握とリスクのフィードバックのために
いかに最新の科学技術を応用して開発したとはいえ、今回のワクチン接種は短期間で開発し、世界で数十億人の人々に接種しようという歴史上初めての大事業である。ワクチンの生産工場から接種会場に確実に配送することはもちろん、有効性や副反応など接種を受ける国民の健康状態を継続的に観察することも必要である。要するに、ワクチンというモノと接種を受けるヒトについてのモニタリング、すなわち時系列に沿ったヒトとモノの記録をしっかりと作成し、保存しなければならない。
ヒトの継続的なモニタリングについては、デジタル先進諸国では国民ID(わが国のマイナンバー)を使って接種記録とその後の健康管理を行う仕組みが存在する。しかし、わが国ではまだそのような制度は存在しておらず、健康状態のモニタリングにしても、先般、全国で医療情報の確認ができる仕組みの制度化が始まったところだ。既に始まっているコロナ・ワクチンのモニタリングにはとても間に合わない。
それでも、継続的なモニタリングは、ワクチンの効果を確認し、副反応など接種後の健康状態を把握するためには不可欠だ。先進諸国で導入されているような、あるいはわが国で計画されているような全国民をカバーするような悉皆の健康データをモニタリングする仕組みではなくとも、できるだけ多くの国民をカバーし、迅速に状況を把握し、もし重篤な副反応などのリスクが発見された時には直ちにフィードバックして警報を出せるような仕組みが望ましい。
それには、第1に接種を受けた者の本人確認が確実にできること、第2にマイナンバーその他の公的なIDと健康情報とを連結させることができ、それに接種記録を結び付けることができること、第3に健康状態の異変等について容易にしかるべき医療機関等に本人や家族が通知できること、第4にそのような通知の収集分析によってリスク要因が発見された時には、リスク情報をフィードバックして該当者に速やかに知らせ警告できること──などの条件を満たしていることが求められる。
ワクチンの接種は、現在、医療機関に受診している人だけではなく、健康な人も対象にしている。したがって、医療機関の受診者だけをカバーする情報網では不十分であり、広く多くの国民をカバーする仕組みでなければならない。特に、接種記録が感染の陰性証明として使われる可能性もありうることから、なりすましによる接種や偽装、また取り違えなどの可能性がない方法でなければならない。
このような条件を満たす仕組みはいろいろ考えられるが、ここではスマートフォンや携帯電話を使った方法を考えてみる。