ロシアのプーチン首相が5月に来日することになった。この来日で日ロ関係はどのように進展できるだろか。
しかしそれを考える前に、先日、「サハリン2」(石油・天然ガス開発プロジェクト)稼働に伴ってサハリンで行われた麻生・メドベージェフ会談、そして同じ時期に行われた小泉純一郎元首相のモスクワ訪問の結果を把握しておく必要がある。
この20年ほど日ロ関係を牽引してきたトロイカ(3頭立ての馬車)は、(1)領土問題、(2)経済関係、(3)米国や中国などとの関係を巡る国際政治戦略、となっている。時期によってそれぞれの比重は移り変わったが、トロイカの構造はそのまま続いている。
今までは、日本にとって最も比重が大きい問題は「領土」であり、ロシアにとっては「経済」だった。この10年間、「戦略」の比重は低下しつつあったが、ここに来て中国の影響が格段に増えてきた。
サハリン会談での比重はどうだったのか。メドベージェフ大統領が麻生太郎首相をサハリンに招待したのは、領土問題解決の糸口を見出すためではない。サハリン2が生産する液化天然ガス(LNG)の約6割は日本に輸出される。日本から見ると、今後、年間に輸入するLNGの7%はサハリン2から調達することになる。つまり、両国の経済関係の新たな幕開けをお祝いするためであった。
一方、政治的に追い込まれている麻生首相にとって、サハリン訪問は「外交に強い」ことをアピールする材料だった。「領土問題の最終的解決に向けて進展が得られるよう、引き続き、強い意思を持って交渉をしてまいりたい」とサハリンに行く10日前に北方領土返還要求全国大会で述べていた。
首脳会談の目標についての食い違いがあったものの、首相官邸の発表では、会談は全体として「非常に良い雰囲気」で行われたという。これは、あながちおおげさな表現ではなさそうだ。日ロ関係はいい方向に向かいつつあると言っていいだろう。
「独創的なアプローチ」で合意したはずなのだが
ただ、その流れが続くかどうかは分からない。今後の流れを占うためには、以上の3つの問題の現状を見極めなければならない。
まず領土問題だ。麻生首相とメドベージェフ大統領のサハリン会談では、領土問題は「今の世代で解決すべき」問題であり、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチで解決を加速する」必要があることが確認されたという。もしも本当にその2点について合意があったのならば、明らかな前進であると言わなければならない。
しかし両国の報告には微妙な温度差がある。日本の公式な文書には、以上の2点が記述されている。だが、ロシア外務省の発表では、「両国が双方に受け入れ可能な解決方法を見つける」「お互いに極端な立場から離れ、互いに向き合う用意をし、健全で建設的なアプローチを維持する必要性を認識したうえで、対話を行わなければならない」としか記述されていない。日本が公式文書に盛り込んだ2点の合意は欠けているのだ。
2008年11月、ペルーで行われた日ロ首脳会談では、「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」はむしろロシア側が提唱していたはずだ。
それなのに、サハリン会談の合意内容をなぜ文書の形にしないかというと、領土問題の解決に急ぐ日本からプレッシャーがかかるのを恐れているからである。