運用実績と信託報酬を分けて扱わない

 しかし、本当に信託報酬だけで投資信託を選んでもよいのでしょうか?

 過去10年の騰落率を見ると、インデックスファンドを上回っているアクティブファンドもいくつかあります。ここで挙げたインデックスファンドのうち2本は日経平均株価への連動を目指す投資信託なので、『netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし)』と『スパークス・新・国際優良日本株ファンド』と『ひふみ投信』の3本は、「過去10年の利益が日経平均を上回った」ということになります。
 (ただし、『netWIN』と『ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)』の主な投資対象は米国をはじめとする海外の先進国株式なので、日経平均株価と比較することがあまり意味をなさない点は留意する必要があります)

 もちろん、各ファンドの騰落率は信託報酬が差し引かれたうえでの実績です。インデックスファンドより1%以上高い信託報酬を支払ってもなお、インデックスファンドを上回る利益が得られるのであれば、あまり手数料にこだわらなくても良いように思います。

 そもそも、なぜアクティブファンドの信託報酬が高いかといえば、アクティブファンドは「人間の手で投資対象を選ぶ」という仕組みだからです。投資対象の選別を行う人がいれば、その判断のもととなる企業や業界の調査を行う人もいます。そうしたプロフェッショナルな人たちに支払われる対価が、信託報酬の一部となっているわけです。

手間をかけて運用するアクティブファンドは生身の人間が手間をかけて運用するから、そのぶん費用はかかるけれど、ファンドごとの個性が出やすく、中にはインデックスファンドを上回るパフォーマンスを継続しているファンドもある

 ところが、いくら投資対象の選別やリサーチにお金と労力をかけても、その努力が実を結ばず、インデックスファンドに負けてしまうアクティブファンドもあります(一般に投資信託の良し悪しは騰落率だけでなく、価格変動の大きさも考慮して判断するため、騰落率がインデックスファンドを下回っていても、必ずしもそのファンドが劣っているとは限りません)。でも、それは信託報酬が高いから悪いのではなく、単にそのファンドが運用に失敗してしまっただけのこと。信託報酬そのものが悪いわけではありません。

 投資信託にとって重要なのはあくまで運用実績です。そして、運用実績と信託報酬は分けて扱わない方が良いと筆者は考えます。
 たとえば上記の表では、『スパークス・新・国際優良日本株ファンド』と『ひふみ投信』の過去10年間の騰落率はほとんど同じですが、信託報酬は『ひふみ投信』の方が安くなっています。それなら『スパークス』の信託報酬を『ひふみ投信』と同じくらいまで引き下げれば、『スパークス』の方がより利益を出せるはずだと考えたくなりますが、信託報酬を下げれば企業を調査するアナリストが減ってしまい、有望な銘柄の発掘ができなくなるかもしれません。

 たとえ信託報酬が2%でも3%でも、長い目で見て年平均10%以上の利益が出るのであれば、それは優れた投資信託だといえます。信託報酬を1%下げれば、単純に利益が1%上がるわけではありません。

 信託報酬は単なるコストではなく、利益を高めるための「燃料」と考えるといいかもしれません。インデックスファンドは低燃費でよく走るエンジン。アクティブファンドは燃費は良くないけれど、じゅうぶんな燃料を与えれば力強く加速することもあるエンジン。もちろん燃費が悪すぎるのも良くないのですが、エンジンの性能を最大限に引き出すためには、適切な量の燃料が必要なのです。