中堅・中小企業が目指すべき方向

 これらの課題を解決しつつ、大企業と中小企業の間にある格差を解消していかないと、中小企業の未来はありません。そのために何をすべきか――。我々の経験を基に、中堅・中小企業が目指すべき方向についてお話しします。ポイントは4つあります。


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 1つ目は「本質を捉えた価値提供」であり、freeeが最も重視している価値基準です。これは単にお客様の要望に応えるだけでなく、本質的な課題を特定し、技術を含めた広い視野から最良の手法で解決するサービス開発を行うことです。

 我々のソフトウェア開発を例にとります。経理業務を自動化する会計ソフトというコンセプトですが、リリースする前は、そうした顧客ニーズではありませんでした。お客様が求めていたのは入力を速くするソフトでした。ただ、観察の結果気づいたことは、経理担当者の日常業務の7割がルーティン作業で、自動化すればその作業は効率化できるということです。それを実現するソフトを開発すれば、真の価値を世の中に提供できると考えました。 

 これまでビジネス向けのソフトウェアというと、比較表で機能のある・なしや機能の数などを比較して検討するという選び方をされてきたと思いますが、我々のプロダクトはそうではなく、最初にリリースする時も、リリース後の継続的な改善においても、比較表には表れない本質的価値に基づいて開発に当たっています。


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 2つ目は「人が集まる組織作り」です。大企業では1つの採用枠に3人の学生が応募するのに対し、中小企業では1人の学生に対して10社の求人があるといわれます。採用自体が難しいだけでなく、コストも上がっている中で、どれだけ人が集まる組織を作れるかは、本質的価値提供に次いで重要なポイントです。

 我々は、創業当初から「freeeの根幹を成す価値観とは何か」について、社員全員で考え続け、議論するとともに、企業カルチャーを共有するための仕組み作りに対して積極的に投資を行ってきました。 

 freeeの価値基準の最初のバージョンは私とCFOの2人で作ったのですが、社内に一切広まりませんでした。上が勝手に決めた学級目標のようなものは、誰も覚えたくなかったからです。そこで原型となった学級目標をベースに社員全員で議論して、ボトムアップで価値基準を作り、メンテナンス&アップデートしてきました。そのために、年2回の合宿を行ったり、社員総会を開催するなど、コストもかかりましたが、社員全員が関与することにこだわりました。


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 3つ目は「人の力の最大化」をすることです。いまやいろいろなテクノロジーがありますから、従来、人がやっていたこともテクノロジーを活用することで、さらに踏み込んだ効率化が可能です。例えばfreeeでは、インサイドセールスを導入したり、カスタマーサポートのツールとして、チャットやAIなども活用しています。自ら徹底的にクラウドサービスを活用し効率化を図ることで、「矛盾のない経営」を実現してきました。