(左から)浅尾氏、林氏、吉川氏、櫻井氏、中村氏(写真提供:エコノミスト・カンファレンス、以下同)

 日本の変革をテーマに開催されたエコノミスト・カンファレンス「ジャパン・サミット2010--日本における世代シフト、新たな時代のリーダーと変革のビジョン」。ダイジェスト第3回は、「日本経済ストラテジー対談」。

 パネリストは、参議院議員・民主党財務副大臣の櫻井充氏、メリルリンチ日本証券調査部チーフエコノミストの吉川雅幸氏、参議院議員・自由民主党シャドウ・キャビネット財務大臣の林芳正氏、衆議院議員・みんなの党政策調査会長の浅尾慶一郎氏。モデレーターは慶應義塾大学大学院ビジネススクール教授・中村洋氏。

消費税引き上げの前に住宅・教育コストを下げる必要あり

(上)慶應義塾大学大学院ビジネススクール教授 中村洋氏
(下)民主党財務副大臣 櫻井充氏(参議院)

中村 財政問題と社会保障制度についてご意見をお聞かせください。

櫻井 国と地方の借金は現在、GDP比で200%近くまで膨らんでいます。

 しかし世界の例を見ると250%くらいまで耐えたケースもありますし、自国民が債券の買い手である自国通貨建ての借金で破綻した例はありません。すぐに問題が起きるような債務ではないと考えます。

 もちろん財政再建の必要性は重々承知しています。私が常々官僚の方々に申し上げているのは、予算は投資だということです。何年後にどれだけのリターンを期待できるかを考えて予算を付けようじゃないか、と。

 併せてシステムも改革する必要があります。例えば研究開発予算をただ付けるだけでなく、大学と企業の共同研究で生まれたシーズが商品開発につながるようにする、といったことです。

 もう1つ私たちが気にしているのは、企業がずっと赤字体質で70%以上が税金を払えていないことです。要因は様々ですが、ことに大きいのは物価の問題だと思います。利益率を大幅に圧縮し、人件費も抑制せざるをえない無理な構造の中で、企業はモノの価格を下げている。この構造を変えないといけません。

 ここ10年、世界各国では物価が上がっているのに、日本だけは上がっていない。根本的な原因は病気や不慮の災害、老後の生活といった将来への不安があるせいでお金を使えないことです。1450兆円に上る日本人の金融資産はその結果と言えます。

 このお金を回すためには、社会保障システムを整えることに加え、その仕組みを国民にきちんと伝えることも大切だと思います。日本の医療保険などは世界で最も優れたシステムなのですから。

 社会保障貯蓄の導入なども検討すべきでしょう。相続税を課税しない代わりに、健康保険から給付されるような費用の一部を社会保障貯蓄から払っていただく仕組みです。

 日本の産業構造をどう変えるかについては、グリーンイノベーション、ライフイノベーションということを中心に考えています。中でも重要なのは医療分野でしょう。

 リーマン・ショックの後、日本の成長率だけがマイナス12%と大きく落ち込みましたが、それは米国で耐久消費財が売れなくなったという外需的要因によるものです。

 その時期、トヨタ、パナソニックなど耐久消費財メーカーは大幅に売り上げを減らしましたが、製薬メーカーは武田を筆頭に健闘しています。まだ中国や韓国が参入していないということもありますし、日本はこの分野にもっと力を入れていくべきです。

 先進諸国と比べた国民負担率の低さからいって、消費税率の引き上げはまだ可能です。しかし、その前にやらねばならないことが2つあります。それは住宅と教育のコストを下げることです。

 特に住宅は、日本では消耗品という感覚に近く、住宅に投資したほかに貯蓄せざるをえないのが実情です。

 中古住宅の流通シェアをもっと高めて、米国のように住宅を金融資産として考えられるようになれば家計にもっと余裕ができる。そうした体制をまずつくらないと、税率アップに耐えられない人が出てくるのではないかと感じています。