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10MTVオピニオン


出演:小室淑恵(株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長)

 働き方改革を進める上で、基本となる「人口ボーナス・オーナス」という考え方がある。ハーバード大学のデービッド・ブルーム教授が提唱したもので、人口がその国にボーナスをくれる状況を人口ボーナス期と呼ぶ。その時期は、労働力人口が多く人件費が安いので、早く・安く・大量に世界からの仕事をこなす一方、高齢者が少ないので国としての負担も小さい状態である。この考え方を用いれば、「アジアの奇跡」と呼ばれた経済発展の説明がつく。

 日本の人口ボーナス期は1960年代から始まり、90年代半ばで終わりを告げているが、なぜ人口ボーナス期が終わるのだろうか。国が経済発展によって豊かになると、親は子どもの教育への投資を始め、子どもたちが高学歴化していく。これが人件費の上昇につながり、仕事がその国に集まらなくなる。また、高学歴化すると、女性だけでなく男性の結婚年齢も上がるため、少子化へとつながることになる。このような高度経済成長期には医療や年金制度の整備が進むため、社会保障のコストが国に重くのしかかり、一人当たりのGDPは横ばいになっていく。そして、人口ボーナス期は一度終わった国には、二度と訪れないのである。

 現在の日本は人口オーナス期の真っ只中である。オーナスとは負担や負荷を意味するので、人口構造が国の経済に重荷になっている状態である。労働力人口が減り、働く世代が引退世代を支える社会保障制度の維持が困難になってきている。しかし、日本の真の問題は人口ボーナス期から人口オーナス期に入ったことそれ自体にはなく、少子高齢化が進んだスピードにある。

 なぜこれほど速いスピードで突入したかというと、少子化対策に失敗し、全人口に対する子どもの比率が減ったからだ。「一人っ子政策」で人口ボーナス期を短縮してしまった中国では、その問題に気付き、現在人口構造の転換に注力している。

 オーナス期に必要な政策のポイントは2つある。1点目は「短期雇用」の充実だ。結婚・出産で仕事を辞めてしまった女性をはじめ、障害を持つ方や介護をする方たちがしっかりと労働できる環境をつくりさえすれば、短期的な労働力はすぐにも確保できる。

 2つ目は、長期的な労働力を確保するために、真に有効な少子化対策を打つことだ。子ども一人を持つ家庭を対象に、二人目以降が生まれたか生まれなかったかの分岐点はどこにあったのかを厚生労働省が追跡調査した。その結果、夫の帰宅時間が早く、家事育児に参画する時間が長い家庭ほど、二人目以降の出生につながったというデータが抽出された。第一子が生まれたとき、女性が一人で家事・育児に臨まなければならないと、第二子以降を持つことに踏み出せなくなってしまう、ということだ。結局、女性たちが真に望んできたのは、「男性の働き方改革」である。この点を男性が理解することにより、大きなパラダイムシフトが生まれつつあるのが現状だ。

 他国と日本の働き方を比較すると、アメリカとの比較では時間外労働に対する手当の違いが目立ち、EUとの比較では次の勤務までのインターバルという考え方に差があることが分かる。日本は36協定さえ結べば、事実上無制限の長時間労働ができるということで、ここが日本の最大の問題だと株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長・小室淑恵氏は指摘する。

 人口ボーナス期の経営戦略をそのまま続けることは、人口オーナス期にある日本の企業にとって逆効果でしかない。いかに速やかにオーナス期のやり方に転換できるかが問われている。


 この動画は知的教養メディア「テンミニッツテレビ・オピニオン」で収録した映像です。

 全編は16:20あり、この動画はその冒頭部分です。
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 人口オーナス期の日本がいま行うべき「働き方改革」とは