昨年11月13日、旧ソ連の西南端に位置するモルドヴァ共和国で「親ロ」大統領が当選した。欧州連合(EU)加盟を目指す旧ソ連諸国に対するロシア外交はことごく後手に回ってきたが、ここへきてようやく反攻の兆しが見え始めている。
「親EU国」モルドヴァ
25年前にソ連から独立したモルドヴァは、「ヨーロッパ最貧国」と揶揄されつつも、EU合政策を続け2014年7月にはEUとの連合協定調印に漕ぎ着けた。
モルドァ経済は内戦状態のウクライナに比べ安定しており、国民1人当たりGDP(国内総生産)やドル換算平均月収額でウクライナを抜き去りつつある。
モルドヴァのEU接近に対し、ロシアは同国製品に検疫上の問題があると称して報復的な輸入制限を課してワインや農産物をブロックし、揺さぶりをかけているのは周知の通りである。
こうしたロシアの貿易政策の結果、モルドヴァの貿易輸出構造はますますEU圏に依存してしまっている。モルドヴァの対ロシア輸出額が激減する一方で、対EU輸出額は横ばいで推移しており、相対的にEUのシェアが上昇したのである。
また、EU・モルドヴァ間では 2014年にビザなし体制も発足している。そのため、モルドヴァにとり、EUは輸出先のみならず(非合法ではあるが)短期的な出稼ぎ先ともなってきている。
彼ら出稼ぎの本国送金額は、モルドヴァGDPの23.4%(2015年、世銀統計)に相当していることからも、ビザなし体制の重要性が理解できよう。「ヨーロッパ」それ自体が、モルドヴァの成長モデルとなっていることは言うまでもない。
一方で、ロシアの輸入制限によってモルドヴァ農業界が少なからず損害をこうむっているのも事実である。
さらには、ルーブル安にもかかわらずロシアは依然として最大の出稼ぎ先となっているため、モルドヴァはロシアの労働・移民政策に敏感である。現時点で、モルドヴァ国民は、ビザなしでロシア渡航が可能である。
ところで、モルドヴァの親EU政権下では汚職が蔓延している。GDPの8分の1に相当する巨額が国内銀行から流失した不正送金事件は未解決のままである。