ロシアで高齢者問題が急浮上してきた。10月25日、メドベージェフ大統領はクレムリンで会議を開き、高齢者の生活の改善が国家の「優先課題」であるとして、議論の場に提示したのである。

 2012年の大統領選挙を控え、メドベージェフは国民の関心が高いデリケートな問題に取り組んだ。人気集めなのか、もしくは年金の確保が財政上の大きな問題だから熱心に取り組むのか、マスコミの意見は分かれている。

 10月22日、国連開発計画は「ロシアにおける国民人的開発、2010」という報告書で、ロシア人の生活水準は全般的に向上し、貧困層の割合は14%まで下がってきた、と伝えた。国連開発計画の代表は、「ロシアの生活水準は、かなりの上昇が見られる」という。

 貧困者は2005年と比べると3.7%減り、最低月給は2000年の1200ルーブルから5000ルーブルまで上がった。

 平均寿命も右肩上がりに伸びている。ロシア政府筋によれば2015年までに71歳に達するだろうという。国連の報告によれば、2005年にロシアの男性の平均寿命は58.8歳だったが、2008年に61.8歳まで上昇した。女性は同じ期間に72.3歳から74.1歳まで上昇した。

 平均寿命が長くなっているのは、政府の大きな業績と評価していい。だが皮肉なことに、政府にとって新しい頭痛の種を生み出している。年金支払いの問題である。

 ロシアの年金生活者は3000万人。これは国民5人のうち1人に当たる。今後、ロシアでは特に80歳以上の高齢者の数が増えると予測されている。

 年金生活者は、政治家にとって一番大切な有権者だと言える。そのためプーチン、メドベージェフ政権はここに来て、インフレを上回るペースで年金額の引き上げを行っている。

 年金額は2010年だけで3回も引き上げられた。現在、年金の額は最低賃金よりも高く、全体の金額はGDPの10%に及んでいる。2011年にも、9%の増加が計画されている。メドベージェフ大統領は、ロシアの年金の平均支給額を2020年までに平均収入の40%にすると公言している。

このままでは受給年齢を引き上げざるを得ない?

 しかし、年金額の引き上げに取り組むメドベージェフ大統領とプーチン首相の熱意がいつまで続くのかは怪しいところだ。

 ロシアのクドリン財務大臣は、「財政は逼迫していて、2013年以降は年金を毎年引き上げることはできない」と警告する。インフレを抑えきれない現状では、年金は実質的に減少していくことになる。