これまでの連載はこちらから

 ソーシャルメディアマーケティング市場で急成長中の企業、Social Touchの前に立ちはだかる「フリーミアム先進国」という中国市場のカベ。ソーシャルゲーム(Free to Play)も「中国発イノベーション」といっても過言ではありません。

 前編に続き、後編では、この大きな困難を克服した数社の先行事例を突破口に、中国・新興国の「フリーの大海」の中を、どう舵取りをして行けば良いのか? そのヒントを探してみたいと思います。

中国は「フリーミアム先進国」

Legend Capitalの朴焌成パートナー(右)とDI上海高級創業経理の板谷俊輔(文中の画像・図表は全てドリームインキュベータ提供)

DI 板谷:前編では、中国の現代エリート像を地で行くCEOが、鳴かず飛ばずの5年間を耐え忍んだ末、ようやくソーシャルメディアの波を掴み、Weibo(中国版Twitter)上のマーケティング事業で台頭し始めているとのことでした。

 しかしながら、同時に、北米でベンチマークしていた「中小企業向けツール提供(SaaS)」モデルへの移行が進まず、今は大企業案件が中心、とのお話もありました。売上は安定するものの、労働集約的であり、利益率が伸びにくいというのが現状です。

LC 朴:前回もお話しした通り、このことには、もちろんCEO自身も真っ先に気付いており、ことあるごとに、「中小企業フォーカス」「ツールで軽くしていく」という方針を打ち出していました。

 むしろ、それどころか、ある投資家向けの会合では、「大企業案件は全てやめて、今後は中小しかやらない」とまで言い出す覚悟でした。10社の大企業クライアントを全て捨てるというのです。

DI 板谷:今となっては300名のうち、200名がクライアントワークに従事している。そのような中で、相当にドラスティックな意思決定につながりうる発言ですね。

LC 朴:これには、投資家の立場として、強く反対しました。数多ある中小企業向けのビジネスを見てきた中で、中小企業に課金することのハードルの高さは痛いほど良く分かっていたからです。

 私たちは、「中小企業からマネタイズできるビジネスモデルが確立するまでは、大企業を諦めるな」と伝えました。

DI 板谷:「取れるセグメントから取っておく」というのも、1つの確かなオプションです。

LC 朴:北米にはSaaSだけに絞って投資するベンチャーキャピタル(VC)もあるくらい、中小企業向けのSaaSが盛んです。世界10万社以上に顧客管理や営業支援ツールを提供するsalesforce.comの時価総額は、400億ドル(2015年2月時点)に達しています。

 一方で、中国では、中小企業向けのSaaSビジネスは、なかなか立ち上がっていないのが実情です。