「担当部長」とは名ばかり。そのおばさんは文字通り窓際の席にいて、朝から夕まで読書三昧だった。日に何度か決裁印を押す以外、仕事らしいことをしている姿を誰も見たことがない。5時半のチャイムが鳴ると、その響きの余韻も消えないうちにそそくさと職場を後にしている。聞くところによれば50代半ばの役員と同期だとか。

 そんな彼女がある日静かに荷物をまとめて退職した。さすがに肩を叩かれたかと鼻で笑ったのも束の間、翌朝の新聞の人事欄を見た元同僚たちは仰天して言葉を失う。あろうことかあの窓際おばさんが1部上場企業の役員になっている・・・

 こんな話があと5年もすると珍しくなくなるかもしれない。

ヘッドハンターはどんな女性を狙っているのか

 都心を見下ろす高層ビルの窓を背に、身振り手振りでてきぱきと部下に指示を与えているのは、外資系コンサルティング会社に務める小塚みのり(仮名)、49歳、独身。アメリカの大学を出て商社に就職し、メーカーの広報部の課長と広告宣伝部長を経て、2年前に今の会社にスカウトされた。管理本部長として広報と広告宣伝、渉外部門の20人を束ねている。年収は1500万。独り身の女が3匹の猫と暮らすには十分すぎる報酬だ。今の仕事に不満もない。

 そんな彼女のところにここ半年ばかりヘッドハンターからのオファーが相次いでいるという。その数の増え方よりも、中身の劇的な変化に彼女は驚いている。何しろほとんどが「役員候補」のオファーなのだ。

 「こそばゆいような嬉しさはありますけどね」と小塚は照れ笑いする。「ただ、自分もそんな声のかかる歳になっちゃったということでもあるし」

 しかし実のところ、単に彼女が歳をとったからこういう話が来るようになったわけでは決してない。いまヘッドハンティング市場にちょっとした異変というかブームが起こっているのだ。昨今ヘッドハンターたちの熱い視線を集めているのが、まさに彼女のような「50歳前後、女、部長以上経験者」なのである。