黒川清・日本医療政策機構代表理事監修

1. 災害対策全体の中での災害医療

 第1回、そして第2回の前回に分けて、米国の災害対策の流れについて概観した。最終回となる今回は、いよいよ、そのなかで災害医療について見ていきたい。前回、国家対応枠組(NRP)について、14分野のうち2分野が医療・公衆衛生分野に該当すると述べた。

 では、この2分野を担当している担当当局はどのように課題を深堀りしているのだろうか。一例として、米国疾病予防管理センター(CDC)の公衆衛生における危機対応準備能力のリストを見てみよう。

 米国疾病予防管理センターは、公衆衛生における危機対応準備の能力向上のため、15領域を必要能力として挙げている。すべて挙げると、以下のようになっている。

(1)コミュニティーにおける防災準備
(2)コミュニティーにおける復興
(3)危機管理オペレーションとコーディネーション
(4)危機発生時の公共情報発信と警報発信
(5)死亡者の管理
(6)情報共有
(7)多数への一斉的なケアの提供体制の構築(マス・ケア)
(8)投薬などの処方手段の確立
(9)医療器具などの機材マネジメントと投入
(10)局所的に増大する医療ニーズなどへの対応(メディカル・サージ)
(11)薬剤以外による介入手段の確立、(12)公衆衛生におけるラボ研究とテストの実施
(13)公衆衛生における疫学的介入の実施
(14)医療提供者をはじめとする被災地対応者の安全と健康管理
(15)ボランティアの管理

 災害医療となると、局所的で迅速な対応が注目されることが多いが、この15領域を見ると、「危機対応準備」や「防備」の概念が、もう少し包括的に捉えられていることが見て取れるだろう。