南仏ニースに、高さ28メートルの巨大な頭部の彫刻がある。
テート・カレ(Tête Carrée、四角い頭)だ。これほど大きいだけでも目を見張るが、何と言ってもデザインが面白い。口元から上部がぐるりと四角く覆われていて、表情がまったく見えないのだ。
どんな表情なのか、どんな顔の作りなのか、あれこれ想像してみるのが楽しい。さらに面白いことに、この頭部は実用アートで、四角い立方体の中では人が働いている(内部の一般公開はしていない)。
この世界初の「住める彫刻」の作者は、同市に住むサシャ・ソスノ(Sacha Sosno)だ。ソスノは彫刻の一部をわざと覆ったり、彫刻をくり抜いたりする手法で見る人をいつも驚かせる。(文中敬称略)
美術は、誰もが屋外で楽しむべし!
こんな面白い作品を作った人に会いたい。その一念で、ソスノのアトリエの扉をたたいた。そこにはテート・カレのような遊び心たっぷりの、ソスノの手になる彫刻がたくさん飾ってあった。
体全体に板が何枚も張ってあって輪郭がよく見えない像、体がパズルのピース状になっていてピースが取れて穴が開いている像、布を顔にまとって顔が見えない女性像など。どれを見ても「変わった彫刻だ!」とびっくりさせられる。
アトリエを出た屋外にも作品があった。人の形やエクスクラメーションマークの形をくり抜いた強い色調の板だ。
「山が美しいですね。こうして穴を通して見ると面白いでしょう」
ソスノはエクスクラメーションマーク形の穴の背景にある、遠くの景色を愛おしそうに見つめた。ソスノは山歩きが好きだという。自然に対する愛着と、自身の作品への愛着の両方をかみしめている様子だった。
ソスノの彫刻は屋外に飾られることが多い。だが作品を1箇所に集めて野外美術館といった特別な空間は作ってはいない。街の中に点在させている。
噴水にあったり海岸沿いにあったり、ホテルや公共施設にあったり。何気なく街を歩いていて、また運転中にこんな変わった形の像に出合うとドキッとする。
「美術は閉ざされた空間である美術館やギャラリーでなく、屋外で見るものだと思います。例えばギャラリーだと2000~3000人という訪問客に限定されますが、同じ作品が屋外にあれば、ちょっとこの通りを歩いただけという人なども含めて、もっともっとたくさんの人たちに見てもらえます」