前回に続いて、筆者が最近参加したヨーロッパの自動車メーカー、サプライヤーによる報道関係者向けミーティングでの出来事と感想を記す。

 それぞれのミーティングで、企業のビジネスシーンの説明、そしてEV関連技術の講演を受けて、「日本はEVとその技術では世界をリードしているのですが・・・」で始まる記者からの質疑の後にも、まだ他のテーマの講演があっ たり、要素技術の現物を手にして技術者と話す機会もあったりした。しかし「世界をリードする日本のEV市場、EV開発にどうやって参入するつもりですか?」というやりとりを済ませると、そそくさと会場を後にする記者がけっこう多かった。

 これもいつものことではある。しかし例えばボッシュのミーティングで「電動駆動の最新動向」の後に続いた講演は、「ディーゼルエンジン要素技術の最新動向」であり、「衝突回避を含めたシャシー安全技術の最新動向」であった。

 ディーゼルエンジン要素技術に関する分野では、ボッシュが世界をリードしている。唯一デンソーが技術面では対抗しているが、浸透度では追いつけない。また、シャシー安全技術として、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)、ESC(横すべり時車両運動安定化装置)は同社が先導し、走行中の車両周囲の障害物検出・衝突被害抑制減速技術でも実装と開発では世界の先端グループの一角を占める。

 それにもかかわらず、会場には空席が、それもメガメディアの人々が着席していた講演台正面のあたりに目立つようになった。

将来の推進システムを左右する「エネルギーシナリオ」

 記者諸氏にとっては、「今さら、内燃機関に関する話、それも技術面のややこしい話を聞いてもしようがない(記事にならない)」ということなのだろう。しかし前回も紹介したように、欧米の自動車産業のプロたちの予測として EVは「10年後でも最大2%のシェア」でしかない。それ以外の、膨大な量のクルマたちは内燃機関を使い続けるとすれば、エンジンやトランスミッションの最新動向は明日の自動車社会とそれを支えるビジネスに直結する。

内燃機関でクルマを走らせるのに「発進+変速」のメカニズムは不可欠。その現状と将来予測もZF社の講演の中で紹介された(左の円グラフが2008年の状況、右が2016年の予測)。コンベンショナルなトランスが今後も圧倒的多数派であり続けるのだが、日本メーカーだけが突出して好むCVTは他では使われない。なぜならば特定の試験モードだけは適合しやすいが、伝達損失が大きすぎて現実の走行の中で無駄に燃料を消費するから、というのも欧米の技術常識となっている。(図版提供:ZF)

 その一方で、ヨーロッパにおいて「環境対策」は今や「CO2削減」と同義に近く、究極の目標は「CO2増加ゼロの完全循環型社会」である。そこに、内燃機関が今後も自動車を、あるいは航空機や船舶を走らせる原動機であり続ける、というビジョンはどう整合するのだろうか?

 その答えは「脱・化石燃料」以外にない。つまり「燃焼によってエネルギーを取り出す」けれども、そこで「CO2の生成と吸収がバランスする」、いわゆる「グリーンフューエル」の大量供給を可能にする。それまでの年月の中では、原油への依存を徐々に減らしつつ、つなぎとしては天然ガスも使う。さらに遠い将来の可能性として「水素社会」も考える。