原発事故による放射線は、海に拡散し海洋生物にどんな影響を与えるのだろうか。震災前のような漁業ができるようなるのはいつのことだろうか。被災地のみならず内外の人々が憂慮している。

 海に囲まれ豊かな海洋文化を持つわが国で、今回の事故はかつての水俣病や田子の浦のヘドロといった公害問題と同じく、海と人間の距離を引き離してしまった感がある。

 多種多様な海産物を味わい、海辺や沿岸の環境に慣れ親しんできたわれわれにとっては、残念きわまりない。

放射線にも正面から取り組む“環境水族館”

 特に被災地の福島県では生活基盤を揺るがす事態だけに怒りをもって憂慮しているが、県内で最も南の海辺に位置する、いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」(財団法人ふくしま海洋科学館)では、“環境水族館”として存在価値を訴えてきただけに、今回の汚染の影響を深刻に受け止めている。

 しかし、その一方で、こういうときだからこそ、放射線の影響を含めて海洋や水生動物と人間の関係のあり方を考えさせようと、前向きな姿勢でいる。

安部 義孝(あべ・よしたか)アクアマリンふくしま館長(著者撮影、以下同)

 「震災に対しては、被害者への追悼の気持ちを続けたいが、祈るだけでなく積極的に何かをして“打って出る”必要があるでしょう。

 日本全体についても言えることですが、震災の被害や現状を外に知らせるという意味において、国際的な発信力が弱いので、そうした情報を出して、外部からの要望に応えなくてはいけない。

 ここは一昨年創立10周年を迎えて、シーラカンスをテーマに国際的なシンポジウムをやってきたので、今度は、やれるかどうか分からないが、放射能をテーマにしたものなどをやらないといけないと思う」

 2000年に同館を立ち上げて以来、館長を務める安部義孝氏は震災から一周年を迎えてこう話す。

地震でほとんどの魚たちを失う

 アクアマリンふくしまは、国際貨物のターミナルとして貨物船が出入りする小名浜港の一画にある。

 この港は8つものふ頭を持ち、物流の拠点としてだけでなく、水族館や水産物産館「いわき・ら・ら・ミュウ」といった観光施設が立ち並ぶ、広大で多様な港湾地域を形成している。