古美術品、王朝スタイルの家具、ダイヤモンドの指輪などの貴金属、希少ワインといった価値ある品物を、他人と競り合って買うオークション。

 入札者たちが一堂に会し、プロの鑑定家によって価値・評価額(推定落札価格)が定められた品を競売人の進行で競い合う「生」のオークションは、ヨーロッパでは日本に比べ一般の人にも馴染みがある。

 そこには、日本や中国の古美術も多数出品されている。その鑑定に日々勤しんでいる日本人女性がいる。鍵谷フライあゆみ、この道、約20年のベテランだ(文中敬称略)。

一流美術品が、次から次へと落札

東洋美術鑑定家として20年近いキャリアを持つ、鍵谷フライあゆみさん。背景は、猿の画で名高い森狙仙(もり・そせん)筆の屏風。9月のオークションで約78万円で落札。(筆者撮影)

 鍵谷フライの守備範囲は広い。日本や中国はもちろん、韓国、タイやインドネシアなどの東南アジア諸国、イスラム圏の品を専門に鑑定している。

 鍵谷フライの勤務先は、オークション会社シューラー。チューリヒ中央駅からチューリヒ湖沿いに10分の場所に、オークション会場、下見展示室、オフィス、倉庫を構える。

 消えていく中小のオークション会社が多い中、シューラーは一昨年25周年を迎えた。国内にある秀作を扱い、スイスに移住してきた各界の著名人もシューラーに出品しているという。

 先々月の9月のオークションの日。筆者の目の前には、ピカソの絵や皿、ホアン・ミロの絵など、普通は美術館でしか見ることのできない芸術品が次から次へと現れた。

 売られる作品の一覧カタログを手にした人たちを前に、檀上の競売人は作者名を告げ、競りを始めた。前後左右からの挙手に目を配り、傍らの電話入札も忘れずにチェック。数秒の間に値がどんどん上がり、最高値をつけた人が落札者として記録されていった。

 日本でもネットオークションが広まっているが、「生」のオークションにはネットとは違う決まりがある。

 競りは、カタログに記された評価額(だいたいこのくらいが適正だという値段)の半額から始まる。評価額が6~8万円の場合は、上限の評価価格の半額4万円がスタート額だ。評価額が10~12万円なら、6万円がスタート額だ。