「狂気の沙汰だ」――。ウォール街からは驚きと怒りが入り交じった声がわき起こった。
1月21日朝、オバマ米大統領は大手金融機関の事業規模を制限し、商業銀行のリスク投資を原則として禁じることなどを柱とする金融規制強化策を発表した。完全実施されれば、未曾有の金融危機を脱し、これから本格的な回復を遂げようという巨大金融機関は、その道を阻まれることになる。
奇しくも、大統領のテレビ演説は、2009年10-12月期の決算で至上最高益を叩きだした米金融大手のゴールドマン・サックスの決算説明会の真っ最中に行われた。あたかも、ウォール街に宣戦布告をするかのようなタイミングだった。
新提案のポイントは2つある。第1は、伝統的な預貸業務を営む商業銀行が、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどに投資することを禁じる。さらに自己勘定で高リスク商品を売買することも原則認めない。庶民から集めた預金を、投機ではなく安全確実な運用に充て、過度なマネーゲームを排除するのが狙いだ。
第2のポイントは、金融機関の負債規模に対する上限設定だ。負債のうちの預金については、市場シェア10%という枠が既にはめられており、その発想を負債全体に広げるという。巨大金融機関の破綻がただちに金融システム危機につながる事態を防ぐため、既に肥大化した金融機関が絡む合併・統合を認めない。具体的な上限数値は不明だが、既存金融機関が事業売却を迫られ、解体につながる恐れすらある。
補選敗北で、大衆迎合に走ったか?
「大きすぎて潰せない(Too big to fail)銀行によって、納税者が人質にされることが二度とあってはならない」。オバマ大統領の言葉に込められているのは、単に、「金融危機再発を絶対に防ぐ」という型通りの決意だけではない。公的資金注入によって救済されたウォール街が、早くも高額報酬を謳歌していることに対する国民の不満を十二分に受け止めている──という政治的なメッセージだ。
オバマ政権は1年前、「米国史上初の黒人大統領」という新鮮なイメージをまとい、「Yes, we can」というフレーズに象徴される、行動力への期待を集めて船出した。