歯舞、色丹、国後、択捉島は、我々が行き来の出来ない島であるが、これら北方4島は我が国固有の領土である。そして択捉島が我が国の北端であることを知る人は多い。では南端は何所か。実は日本の南端は、東京都に有るのだ。これを聞いた人は、一様に意外だという顔をする。
北緯20度25分31秒の島。これが日本の南限で、島の名前は「沖ノ鳥島」。東京都小笠原村にある島だ。
しかし沖ノ鳥島は、島とは名ばかりで、僅かに海面に頭を出しているが、満潮時には今にも水没しそうな岩礁である。中国はこのことを指して「あれは島ではなく、岩に過ぎない。」と言い、沖ノ鳥島の存在を否定する口ぶりだった。これに対して沖ノ鳥島を視察した石原東京都知事は「岩で何が悪い。岩だって立派な島だ。」と言い返している。
確かに沖ノ鳥島はちっぽけな岩礁に過ぎない。しかし、知事が言うとおり、実に立派な島である。それはこの島を中心とする周囲200海里が、日本の経済海域となっているからだ(1海里は1852メートル)。つまり沖ノ鳥島を中心とする半径370キロの範囲の大平洋で、日本の漁船は排他的に漁業をすることが出来るのだ。
では東端はどこかと言うと、それは東経153度59分11秒、北緯24度16分59秒にある、海岸線約6キロメートル、面積1.51平方キロメートルの「南鳥島」が東端である。そしてこれも小笠原村の島なのだ。
つまり小笠原村は、日本の東端と南端を含む大平洋の大小30余の島からなっており、小笠原諸島と言われている。しかし普通に人が住んでいるのは、一番大きな父島と次に大きな母島だけで、人口は合わせて2100人前後。父島の面積は23.8平方キロメートル。これは千代田区のほぼ2倍、他方母島は20.21平方キロメートルで、北区とほぼ同じ大きさである。
一番寒い2月でも平均温度は最低11.4度、最高23.0度で、この時、東京の平均温度は最低1.7度、最高11.4度だから、10度以上の差がある。
また一番暑い6月の平均温度は最高31.8度、最低25.2度で、対する東京は一番暑い8月の平均温度が最高30.9度、最低24.0度だから、暑い時の小笠原と東京は、ほぼ同じ気温。しかし、亜熱帯に属す小笠原の直射日光の激しさは東京の比ではなく、民家の庭先にはバナナ、パパイヤ、ココナツヤシの実が成っている。
私が、初めて父島の土を踏んだのは1975年9月のこと。燃えるような灼熱の太陽の下、港に出迎えてくれた人は誰も帽子をかぶっていない。私も真似をして、それ以後2年数カ月、一切帽子をかぶらずに過ごせたのは、気力体力が満ち溢れた若さが有ったからだろう。
10月、11月となっても気温は下がらない。土地の人は正月には寒くなると言った。しかし初めて迎えた正月の日中の温度は25度。海岸では3~4人が泳いでいた。海水は少しも冷たくない。急いで水着を取りに帰り、得意になって正月の海を泳いでみた。青や赤、黄色と青の縞模様など、大小様々な魚が夏の海と少しも変わらず泳ぎまわり、海底には珊瑚礁が広がっていた。
しかし、12月、1月、2月は時化の日が多く、波が高いので泳ぐ人はめったにいない。わざわざこんな時に泳がなくても、少し待てば楽園のような海が戻ってくるのだ。