新潟県中越沖地震、「サプライチェーン」の脆さ露呈
シンポジウムの冒頭、三井住友海上グループのインターリスク総研で研究開発部リーダーを務める篠原雅道氏は「9.11以来、世界のBCMは『あったらいいもの』から、『なくてはならないもの』に変貌を遂げた」と強調した。
これは、被災したニューヨークの世界貿易センター(WTC)に入居していた企業の間で危機対応の差が歴然としたからだ。数千人の従業員を無事避難させてテロ翌日から取引再開した金融機関がある一方で、現地採用スタッフの人数確認さえ困難な企業も見受けられた。
日本ではどうだろうか。2007年の新潟県中越沖地震が産業界にBCMの重要性を認識させたと篠原氏は指摘する。自動車部品大手リケンの柏崎工場が被災して操業停止。当時、同社はエンジン部品のピストンリングで約5割、自動変速機用のシールリングで約7割の国内シェアを獲得していたため、国内自動車メーカー12社が生産休止に追い込まれた。
完成車メーカーが部品メーカーに依存するカンバン方式の「サプライチェーン」は脆さを露呈し、経済産業省が自動車業界にBCPや危機管理体制の総点検を指示する事態に発展した。
非製造業では、コンピューターへの依存度が大きなリスクとなっている。インターリスク総研が国内の全上場企業を対象に調査したところ、「基幹業務継続のためのシステム依存度」は証券業、商社で全企業が「100%」と回答。銀行業でも94%の企業が「80%以上」と答えている。職場のパソコンが動かなければ、もはや企業は危機を乗り越えられない。

このほか新型インフルエンザはじめ、企業には新たな脅威が次から次へと襲いかかる。それなのに、日本ではBCMへの取り組みの遅れが否めない。篠原氏によると、日本企業ではBCP策定済みの企業は1割強、「策定中」を加えても5割に満たない。これに対し、海外企業では策定率が5割近くに達し、売上高20億円以上に限ればほぼ7割に上るという。
日本の産業界が抱える問題はこれだけではない。せっかくBCPをつくっても、8割近くの企業が従業員にBCM教育を行っておらず、3分の2がBCM訓練を行っていない。BCP策定後、事業継続能力を向上させるための予算については、6割近くが「未手当」と回答している。これでは「宝の持ち腐れ」になってしまう。
コンピューター共同購入→銀行ビル火災→Y2K→9.11

米企業は「9.11」の以前から、危機が起こるたびにBCMを進化させてきた。特定NPO(非営利法人)の危機管理対策機構や事業継続推進機構の理事を務める経営コンサルタント、ナターン・リー・ローデン氏は1978年を「BCM元年」に位置付けている。
この年、米石油精製会社サン・オイルは危機発生に備えてバックアップ用の汎用コンピューターの購入を決定。ところが当時の汎用機は自前でもう1台買うには高過ぎる。そこで同社は複数の企業で1台の汎用機を共有する「フィラデルフィア・コンソーシアム」を組織し、運用は各社のデータセンターで行うことにした。