イタリアと東京、それに青森。この3つの地域を並べても何か特別な関連性を見出すのは難しいだろう。しかし、1人の敏腕料理人が結びつけた時、見た目も味も斬新かつ独創的なイタリア料理が生まれる。
「ぐるなび」から最優秀料理として表彰される
店は東京の下町である日本橋小舟町にある。江戸初期に幕府公認の吉原遊郭が最初に作られた辺りだが、今では当時の賑わいを想像することも難しい。その一角でさらにひっそりとたたずむように営業している。とても行列のできるような繁盛店とは言い難いが、味と素材へのこだわりは秀逸だ。店の名前はラ・フェニーチェという。
昨年(2008年)、レストラン検索サイトの「ぐるなび」から最優秀料理(Best of Menu 2008)として表彰を受けた。今年(2009年)も審査員特別賞を獲得している。2年連続での受賞は珍しいという。
2008年の受賞作は『故郷の風』と題した「青森シャモロックのコンソメスープとそのスフォルマート、青森にんにくとポルチーニ茸の香り」。
スープを作った後の肉と野菜を捨てずにすり潰してプリン状に固め、その上にコンソメスープをかけて青森にんにくとポルチーニ茸を配した作品で、澄んだスープの味に独特の食感があって心地よい。
肉も野菜も素材はすべて新鮮な食材の宝庫とも言える青森県産にこだわっている。青森シャモロックは言わずと知れた青森県が誇る地鶏ブランドで、名古屋コーチン、比内地鶏と並ぶ美味な地鶏として有名だ。
日本のポルチーニ茸もイタリアから輸入した乾燥した茸を使うのではなくて、八甲田山で採れた生で新鮮なポルチーニ茸を使っている。オーナーシェフに話を聞いている最中に八甲田山からちょうどポルチーニ茸が届いたというので見せてもらったが、乾燥したそれしか知らない無知な者には、それがポルチーニ茸とは思えなかったし、種類も実に様々だった。
こうした食材は余すところなく使い切るのがこの店の大きな特徴だ。新鮮で旬の食材を生かしているだけではない。素材はできる限り使い切る料理人のエコ感覚が料理の隅々に及んでいる。しかも、エコだから味は二の次では全くなくて正反対。食べる人に心地よい歯ごたえや別の風味をプレゼントしている。
苦しい修業時代、修業先から受けた愛情がヒント
受賞したスープは、煮込んで出汁を取った後、普通なら捨ててしまう肉と野菜がすり潰されてプリン状になり、それをスープとともに口に含むと、舌の上で再び濃厚なスープが新しい食感とともに溶け出すかのように創造されている。ぐるなびの名だたる審査員たちがうなったのもうなずける。