総務省は4月3日、宿泊保養施設「かんぽの宿」売却をめぐる問題で、日本郵政に初の業務改善命令を出した。年明けにゴングが鳴った「鳩山邦夫総務相VS日本郵政」のバトルは、世論を味方につけた総務相が終始、優位に展開。リングサイドに追い詰められた日本郵政にとどめの一発を見舞ったかのように見える。
しかし、都内の大学で法律関係の教鞭を執る専門家は「今回の改善命令は、法律的には極めて危ない橋を渡っている。日本郵政が行政訴訟に打って出れば、逆に総務省の足元が揺らぎかねない」と警鐘を鳴らす。
まずは、これまでの経緯を振り返っておこう。小泉純一郎内閣が断行した郵政民営化では日本郵政に対し、「かんぽの宿」を2012年9月までに売却・廃止するよう、法律で義務付けている。この規定に沿って、日本郵政は資産売却のための一般競争入札手続きを2008年4月に開始。昨年末までに、「かんぽの宿」70施設と首都圏の社宅9カ所をオリックス不動産に一括売却することを決定した。
ところが、年が明けると、鳩山総務相が「こうした景気状態で売却するのは問題」「一括売却は疑問」と異議を唱えた。それ以降の一連の郵政バッシングは記憶に新しいところだ。結局、日本郵政は譲渡契約の白紙撤回を余儀なくされ、業務改善を命じられる。
業務改善命令の根拠となるのが、日本郵政株式会社法第14条2項。「総務大臣は、この法律を施行するため特に必要があると認めるときは、会社に対し、その業務に関し監督上必要な命令をすることができる」と定めている。総務相は「法令遵守、コンプライアンスの観点から非常に大きな問題がある」16項目(下表参照)を挙げ、改善を促した。
08年04月 1日 | 日本郵政、71施設の一般競争入札を開始 |
12月26日 | 日本郵政、70施設+首都圏9社宅のオリックス不動産への一括売却発表 |
09年01月 6日 | 鳩山邦夫総務相が一括譲渡契約の見直しを求める意見を表明 |
2月 4日 | 総務相、日本郵政に入札経緯の報告を命令 |
2月13日 | 西川善文社長、オリックスとの契約の白紙撤回を表明 |
2月16日 | 日本郵政、オリックスとの譲渡契約の経緯報告書を提出 |
3月31日 | 総務相、「かんぽの宿」黒字化等の条件付きで新年度事業計画認可 |
4月 3日 | 総務相、日本郵政に業務改善命令 |
鳩山総務相が指摘した16の問題点
- 地元自治体への説明不足。国民共有の財産の譲渡という認識が欠如
- 減損処理により不当に帳簿価格を下げた上で安値売却しようとした
- 収益改善の努力をした上で売却すれば、適正価格での譲渡が可能だった
- 入札の条件や手続きが日本郵政の判断で随時、撤回・変更が可能になっていた
- 2年間の転売禁止、雇用維持などの条件が入札参加予定者に説明されていない
- 資料無しで最終審査を実施、オリックス不動産への譲渡を決めた
- 日本郵政の宿泊事業部長の天下りを受け入れる提案を評価している
- 最終審査表の評価内容が曖昧
- 日本郵政の承諾なしに、オリックスが施設を転売、廃止できるとの但し書きがある
- オリックス不動産との契約書では、十分な雇用維持ができない
- 売却のアドバイザーとしてメリルリンチ日本証券が決定するプロセスが不透明
- 国会での売却経緯の説明が二転三転している
- 契約書に明記されず、口頭で確認しただけの事項がある
- アドバイザーメリル日本と売却先オリックス不動産を決定した際の決裁権者が異なる。責任の所在が不明確
- オリックスの言い値で不適正な価格で社宅を売却しようとした
- 「かんぽの宿」メンバーズカードの個人情報保護について十分な注意喚起をしていない