AIの活用とサステナビリティ。この2つは近年の企業経営で避けられないテーマとなっているが、どちらも進める上で課題が存在する。AI活用においては、直近話題の生成AIをはじめ、情報漏えいリスクやガバナンスにどう向き合うべきか。サステナビリティについては、企業がCO2削減を目指すのは必須だが、特に工場などの大規模な設備を持たない企業は何から始めれば良いのかイメージしにくい。
これらに対し明確な答えを提示したのは、レノボ・ジャパン合同会社とレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ合同会社が2023年12月5日に開催した「Lenovo Tech World Japan 2023」である。AIの悩みについては、使い方や場所に合わせて3つの異なるレイヤーのサービスを用意し、解決を図る。サステナビリティに関しては、同社とパソナの取り組みを例に、企業の従業員PCから始められるCO2対策を提示した。
これら2つのテーマを中心に、Tech World Japanの中身をレポートしていく。
AIの情報漏えいリスクを防止する「3つのレイヤー」
「AI for ALL」をコンセプトに開催された23年のTech World Japan。この言葉が意味するのは、文字通りすべての人にAIの恩恵を届けることであり、レノボはAIの技術を誰もがどこでも使えるようにすること、そして一人一人に最適化されたAIを提供することを目指す。その姿勢が本イベントのオープニングから伝えられた。
AIの活用を考える上で、現在議論されているのが情報漏えいリスクやガバナンスだ。たとえば企業の従業員が生成AIを使う際、システムに入力した情報が生成AIの学習データとして利用される危惧もある。
それに対し、レノボとしての“解”を壇上で示したのが、レノボ・ジャパン代表取締役社長の檜山 太郎氏だ。
AIにおけるすべてのやりとりがクラウド上で行われると、企業の機密データがクラウドに上がり、情報漏えいするリスクが発生する。そこでレノボは、すべてのAI活用をクラウドで実行するのではなく、利用シーンごとに3つのレイヤーを設け、データ保護に段階をつけるという。具体的には、パーソナル(従業員個人)、プライベート(個別企業)、パブリック(不特定多数)というレイヤーをイメージしている。
「まず『パーソナル』については、それぞれのデバイス内にAIを搭載し、その中で完結する運用システムを準備しています。つまりデータは端末から外に出ません。次に、組織や会社、グループで共有する情報は『プライベート』として、あくまでその範囲内で共有し、AIを活用します。これもデータは外部に出ません。最後に『パブリック』は、ChatGPTに代表されるように、外部のクラウドと結びつくフリーな世界となります。レノボはこれらすべてのレイヤーでAIが活用できる準備をし、我々の持つデバイスでそれを実現できるようにしていきます」
すべての人が同じレイヤーのクラウドAIを使うのではなく、利用目的やシーンに合わせて最適な選択肢と、それにまつわる機器を提供する。これができるのは、スマホ、PC、タブレット、そしてネットワークやサーバーなど、ポケットからクラウドまで広いサービス群を持つレノボだからだという。
イベントでは、各レイヤーでどのようなサービスを提供していくのか、そのビジョンも示された。まずパーソナルでは、PCなどの個人デバイスにAIが搭載され、高度な処理が行われる。一例としてPCユーザーが離席すると、デバイスのカメラ映像をもとに、AIがユーザーのいなくなったことを検知し、PCに自動ロックをかける。その後、ユーザーが席に戻ると画像検知と顔認証によりロックを解除する。
こうした個人デバイスのAI処理を実現するのが「NPU」と呼ばれるAI処理に特化したプロセッサーであり、それらをThinkPadなどに実装していくとのことだ。
企業や組織内でAIを使う「パーソナル」レイヤーについても詳しく説明が行われた。考え方としては、企業が保有する大量のデータをAIのあるサーバーやクラウドに移動させるのではなく、データのある場所にAIを持ってくる。「今後、企業で生成されるデータは増えていく中で、それらをすべてクラウドに上げてAIが処理するのはコスト的にもリソース的にも難しいでしょう。だからこそAIをデータに近づける、つまりエッジ(デバイス側)でAIを展開することが重要です」こう語ったのは、レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ代表取締役社長の多田直哉氏だ。
すでにレノボでは、各企業の現場にAIを取り入れる「レノボAIイノベーターズプログラム」を世界で展開し、50社以上のパートナーと150以上のソリューションを提供している。その例として、アメリカの小売チェーンKrogerにて、セルフレジにおける顧客の商品会計ミスがあった際にAIが画像検知して店員に知らせるAIソリューションなどが示された。
設備も生産物もない企業がすぐにCO2削減を実現するサービス
企業経営におけるもうひとつの重要課題がサステナビリティだ。設備や生産物がなく、CO2削減の手段が少ない企業は何から始めれば良いのか。この悩みに対して、レノボは従業員のPCに関するCO2対策を示した。
当日はその事例として、レノボとパソナグループ(以下、パソナ)の共同プロジェクトが紹介された。壇上では、レノボ・ジャパン サービスセールス事業統括本部長の吉田尚弘氏と、パソナグループ専務執行役員 CIO・CCO グループDX統括本部長の河野一氏がプロジェクトを伝えたほか、2人の追加取材も実施。今回の取り組みについて詳しく語られた。
パソナグループでは2020年秋、本社機能の一部を兵庫県・淡路島に移転。それから3年近くが経ち、グループ内のPCデリバリー体制をリニューアルしたという。従来のようにPC(ThinkPad)を購入するのではなく、月額のサブスクリプション(定額制)で貸与するDaaS(デバイス・アズ・ア・サービス)を採用したほか、ネットワークの初期設定やトラブルサポート、さらには使用後のPC引き取りや交換品の提供まで、レノボが機器のライフサイクル全体を支援するという。
そしてこの取り組みで活用されたのが、レノボのCO2オフセットサービスだ。その内容について吉田氏が説明する。
「PCの製造・出荷、利用期間中(最大5年分)と廃棄までに排出されるCO2総量に相当するカーボンクレジットをあらかじめ付加し、お客さまが当社PCを利用すると同時に間接的にオフセットできるものです」
レノボは自社ソリューションによる企業のサステナビリティ支援に力を入れてきた。たとえば「2030年には、レノボ製品のエネルギー効率を2018年比で35%削減する目標を立てています」と吉田氏は話す。それはレノボ製品を導入する企業にとってもエネルギー削減となる。また、環境負荷の低い素材を積極的に採用するほか、部品のリサイクルにも注力している。
これらサステナビリティ支援の一環で進めてきたのがPCのCO2オフセットサービスといえよう。
一方、パソナグループもサステナビリティやESGには力を入れてきたが、特にCO2削減については悩みの多い領域だったと河野氏は語る。
「淡路島の活動は当社のサステナビリティの軸とも言えます。もともとこの地で地方創生事業を行い、そこで培った地域との関係をベースに本社を移転しました。その後はオフィスだけでなく、働く人の衣食住すべての環境を整え、ウェルビーイングを高める活動を行っています。一方、企業としてのCO2削減については、私たちは工場などの設備を持たず、化石燃料の使用も少ない人材サービス業です。CO2削減をどう進めれば良いか課題を感じる中で、今回のオフセットを知りました。PCは大きなリソースを必要とするツールであり、当社に適していると感じて採用したのです」
当初、パソナグループはこのようなサービスを認知しておらず、今回のプロジェクトを進める中でレノボから提案したという。吉田氏は、同じようにCO2削減のために何をすれば良いか悩む企業に対して、このサービスの活用を勧める。
「サステナビリティの機運が高まる中で、今回のオフセットや環境に配慮した製品を使うなど、従業員の使うPCから行える省エネルギーもあることを知っていただけたらと思います」
さらに両社が期待するのは、今回のオフセットを通じて、従業員のサステナビリティ意識を啓蒙することだ。「こういったPCを従業員の標準機器として我々パソナが使用しているという事実から、1人1人のサステナビリティに対する理解や意識向上につなげたいと考えています」と、河野氏は話す。
オフセット証明書の発行や、CO2オフセットサービスを利用しているPCのみに貼り付け可能なオフセットシールも用意しており、従業員もこの取り組みを意識する機会が生まれるだろう。
AIの発展もサステナビリティと無関係ではない。河野氏は「AIのソリューションを事業に取り込むことは企業命題ですが、しかしAIを大規模に活用するには膨大なコンピュータリソースが必要であり、エネルギーを消費します。サステナビリティとテクノロジーをどう両立するか、その点はレノボの知見や経験を活用しながら進めていきたいですね」と話す。
吉田氏も「環境に負荷をかけずAIを使うための技術が必要になります。私たちレノボも最新の水冷サーバーをはじめ、さまざまな商品を開発しており、AIと環境のギャップを埋めていきたいと考えています」と続ける。
CO2削減をどう行えばいいか、企業の悩みは年々深刻になるだろう。今後AIの活用が進めば、使用エネルギーが増す可能性は高い。その中で企業はどう環境へのアプローチを行うか。CO2オフセットサービスをはじめ、従業員の使うデバイスから行える対策は有効ではないだろうか。
ブース展示も活況、オフィス生産性を高めるソリューションも
Tech World Japanではその後、分科会も行われ、先述したレノボAIイノベーターズプログラムの詳細な事例や、ESGに配慮した最新ソリューション群の紹介、さらにはハイブリッドワークにおけるオフィス環境をテーマにしたセッションなどが設けられた。
会場ではブース展示も行い、ポケットからクラウドまで、最新のレノボ製品やサービスが紹介された。こちらもワークステーションやホームオフィスの生産性を高める提案のほか、レノボのサステナビリティソリューションも紹介。合計20のブースが並び、たくさんの人が詰めかけた。各ブースの担当者に熱心に質問する光景も見られた。
企業のAI活用とサステナビリティへの対応。近年の企業経営において欠かすことのできないテーマであり、しかもギャップが生まれやすい2つの事柄。今回のTech World Japanは、その課題に対し、明確な姿勢をレノボが打ち出したと言えるだろう。
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