長期の資産形成のためファンドを選ぶ際に重要となるのは何だろうか。投資哲学に共感できるか、が鍵の1つとなろう。スコットランド・エディンバラに本拠地を置くベイリー・ギフォード社は、「長期投資」を軸とした投資哲学と独自の運用プロセスで長期的な運用成果に定評を有する運用会社だ。現地で同社のクライアント・サービス・ディレクターを務める小宮健一氏のインタビューも交えながら、その本質に迫る。
世界中のプロに支持されるベイリー・ギフォード社の運用力
ベイリー・ギフォード社(以下、BG)をご存じだろうか。
同社は、英国・スコットランドの首都、エディンバラに本拠地を置き、1908年の創業以来、100年以上にわたって「成長株への長期投資」を実践し続けてきた、アクティブ運用一筋の運用会社である。エディンバラは、中世からの歴史的建造物が立ち並ぶ一方で、ヨーロッパ有数の金融センターの1つとしても知られる場所だ。
BGはもともと家族代々資産を遺す英国富裕層からの資産運用を多く任されており、そこで培った長期投資の運用スタイルが現在に至るまで受け継がれてきた。現在、BGの最大の顧客層は長期的な視点が重視される世界中の大手年金基金であり、同社の運用・助言資産残高約52兆円のうち45.2%を年金顧客が占めている(図1)。顧客には、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)や日本の多くの公的年金も含まれており、まさにBGは「プロに支持される運用力」を有すると言えよう。
BGと長期に亘り関係を築いてきたのがMUFGグループ。「国内では、三菱UFJ信託銀行が1989年からBGと提携し、1998年より年金基金向けに投資助言を開始しました。“プロが認める揺るぎない信念と運用力”を、個人のお客さまにもお届けするため、三菱UFJ国際投信ではBGの旗艦戦略を活用する個人投資家向け商品を2本、2019年に設定しました」。こう話すのは、三菱UFJ国際投信の外部委託運用部 ファンドマネジャーの角田裕明氏だ。
1つは「ベイリー・ギフォード インパクト投資ファンド(愛称:ポジティブ・チェンジ)」(※商品詳細は後述)、もう1つは「ベイリー・ギフォード世界長期成長株ファンド(愛称:ロイヤル・マイル)」(※第2回でご紹介)である。純資産総額は両者合わせて2,500億円を超えており(2021年12月末現在)、2019年の設定来、日本の個人投資家からも評価を得ていることが窺い知れる。
選び抜いた銘柄を“辛抱強く”保有
「成長株への長期投資」を体現する銘柄選定には、どのようなこだわりがあるのだろうか。
「実は、それほど変わったことをやっているわけではなくて、『株価は長期的には企業利益にしたがって動く』というオーソドックスな考え方のもと銘柄選定をしているに過ぎません」。こう話すのは、10年近く日本のクライアントを担当するBGクライアント・サービス・ディレクター小宮健一氏だ。
長期的に高い利益成長が見込まれる銘柄は、市場平均を上回るパフォーマンスをあげることが期待される。そうした銘柄を徹底したファンダメンタルズ分析を通じて発掘していくのだという。
「このときにベンチマークには一切こだわりません。ベンチマークは『過去を映した鏡』だからです。我々は常に将来を見て、ボトムアップで世界中から成長すると考える銘柄を選定しています」(小宮氏)。
BGの「長期投資」についても触れておこう。長期投資を標榜するファンドやファンドマネジャーは他にもいる。しかし、実際に「売買回転率」を見ると、異なる姿が見えてくる場合も多い。たとえば売買回転率が100%という場合は1年でポートフォリオがすべて入れ替わっている可能性を示唆する。BGの代表的な運用戦略では売買回転率はおおよそ20%程度と低水準にとどまる。
なぜ売買回転率が低いのか? 「徹底した長期投資を実践しているからだ」と小宮氏はいう。BGにとっての長期投資は5年以上。5年経ってはじめて投資先企業の経営者の資質、競争力がはっきりとわかると考えるからだ。同社では、短期的には、株価はランダムに動いているだけ。一方、5年単位で見れば、ファンダメンタルズに沿った株価の動きが期待できると考える。ただ、その道のりは決して容易ではなく、辛抱強く保有することが求められる。
では、なぜBGは辛抱強くいられるのか? 「それは将来の大きな上値を見ているからです」と小宮氏は説明する。
選び抜いた銘柄を“辛抱強く”保有している銘柄事例を紹介しよう。誰もが知る新型コロナウイルスのワクチンを開発した「モデルナ」である。BGのポジティブ・チェンジ戦略では2018年12月にIPO(新規株式公開)で購入した(図2)。
しかし、新型コロナウイルスワクチン開発までは、同社のmRNAテクノロジーは商品化前の段階であり、同社の医薬品は1つも承認されていなかった。こうした状況で、投資を決断した点がBG社の銘柄選定の考え方を体現していると言えよう。
「同社のワクチンにより、世界中の人々の命を守ることができたことはご存じの通りです。しかし、私たちの同社に対する見通しは1つの製品に基づくものではありません。同社は科学に深く根ざした企業文化を持ち、持続可能で拡張性のあるビジネス構築に注力しているため、非常に強力な成長軌道を歩むことができると考えています」(小宮氏)。
BGは2017年初からモデルナと接点を持ち、経営陣を含め同社に対する理解を深め、2018年のIPO参加に至った(図3)。現在、モデルナは新型コロナウイルスのワクチン以外のワクチンや免疫腫瘍学といった分野への研究開発に投資を続けており、BGではさらなる成長を達成することを見込んでいる。
※上記は作成時点での見通しであり、将来変更となる可能性があります。