―具体的にどんな仕組みを作ったのでしょうか。
瀧内 お客様一人一人のエンゲージメントを測るために、まずはその指標が持つべき要件の整理から始め、「Capturable」「Understandable」「Actionable」という3つの要素を軸として検討を進めました。これら3要素を満たす指標として選んだのが「行動指標」です。
行動指標はお客様の行動に基づく指標なのですべてのお客様に紐づく指標として取得できますし(Capturable)、お客様がどういった行動を取っているかも直観的に理解でき(Understandable)、さらにそのお客様の行動を促すためのアクションの検討にも直結できます(Actionable)。
その後は140種類ほど候補のあった行動指標と結果指標との関連性を検証し、結果指標に対する寄与度が高かった3つの決済に係わる行動指標からエンゲージメントスコアを構築することにしました。
山口 このエンゲージメントスコアを社内共通の指標として利活用してもらうために、社員向けのデータベースにもエンゲージメントスコアを連携させ、各種施策の改善に活用するように働きかけてきました。また、社内向けの説明会を開催したり、教育プログラムを用意したりすることで、データ分析に対するハードルを下げる試みも併せて推進してきました。
特に教育プログラムは好評で、社内にもデータ分析できる人材が育成できました。これもARISE analyticsとのシナジー効果です。
レコメンドエンジンを活用して
マーケティングを合理化する
―お客様のエンゲージメントを高めるためにどんな取り組みをしてきたのでしょうか。
白井 お客様に対して事業目線での一方的なアプローチをしてしまうと嫌われてしまいます。そこでお客様にとって最も価値のあるサービスやキャンペーンなどを訴求できるような仕組みを構築したいと考えました。具体的には、KDDIが持つ「My au」などのアプリの自社広告枠での露出やPUSH配信を実施して、サービスの認知拡大・利用促進などを目的とした様々なオファー(特典など)を提供しています。
瀧内 それを実現するために、KDDI様と共に「Single Brain」というレコメンドエンジンを開発しました。「Single Brain」はお客様の年齢・性別といった属性情報や過去のオファーへの反応履歴などを学習することで、お客様一人一人がオファーを配信された場合に何%の確率でクリックされるかを事前に予測しています。この予測値を活用し、お客様ごとに最適なオファーを選び出して配信するまでを自動で実行できる「マーケティングオートメーション」を実現しています。
瀧内 マーケティングオートメーションを実現したことによって、導入前に比べて配信内容のCTR(クリック率)が3倍になり、CVR(コンバージョン率:サービスへの申込など)も1.5倍に向上しました。また、Single Brainでは、機械学習と予測を含めて30分でターゲットとなる顧客リストが作成できるなど、人では実現不可能な作業実行・大幅な工数削減という面でも効果が出ています。
山口 マーケティングオートメーションを実現した結果、My auという看板アプリの価値向上にもつながったことが各種指標にも表れています。この成功体験を通じて、お客様にとって良いものを提供しようと社員の意識も変わってきました。KDDIのデータドリブンマーケティングが目指すところはお客様に心地よさを提供することだと思っています。