「働き方改革」をテーマに、戦略人事の第一人者でありダイバーシティ推進にも取り組むpeople firstの八木洋介氏と、長年の海外駐在経験をもとにCIOとしてグローバルにIT人材活用に取り組まれているコニカミノルタの仲川幾夫氏に意見を交換し合ってもらう特別対談。前編「その働き方改革は本質的な働き方を追求しているか」に続き、後編ではグローバルで勝てる働き方改革についてお二人の議論をお届けします。

●聞き手|佐藤隆太(レイヤーズ・コンサルティング)

不要な階層が
働き方改革を停滞させる

佐藤隆太(以下、佐藤) 海外生活が長かった仲川さんのご経験から、日本企業の働き方について、海外企業との相違を感じることはありますか?

仲川幾夫氏(以下、仲川) 一般論でいうと、「会議が多い」のと「報告が多い」ということでしょうか。「報告」にもの凄いエネルギーを使うというのが一番の違いですね。

仲川幾夫(なかがわ・いくお)
コニカミノルタ株式会社常務執行役。デジタルワークプレイス事業部・IT企画部(CIO)・DXブランド推進部を管掌。ミノルタ株式会社に入社後、海外営業に携わり、香港、米国の販売会社駐在を経て、2003年にはコニカミノルタUSA上級副社長として、コニカミノルタUSA販社の経営統合を推進。米国で買収した米国上場企業の会長職を経て、2009年にコニカミノルタホールディングスUSA社長、2011年にコニカミノルタ中国社長、2014年にコニカミノルタ欧州社長兼本社執行役を歴任。2018年4月より現職。

 ヨーロッパの社長でも中国の社長でもそうなのですが、海外の社長は、かなり任されていると思います。社長は自分で決めなければならない。本社にお窺い立ててやっていたら全然ダメです。もちろん報告はしますが、自分で決めることがいっぱいある。もちろん部下に任せますが、任せても最終的には責任は自分が取るので、かなり入り込んで理解したうえで任せて進めます。

 そういうやり方をしていたのですが、日本では階層が多い。たとえば5人が「うん」と言わないと進まないということがありますね。

八木洋介氏(以下、八木) そもそも要らない階層は廃止すべきだし、それぞれの階層の意思決定者には相応しい人材を配置すべきです。

 人材の配置は人事部だけに任せてはいけません。「誰が一番適任か」という議論の時に人事部に任せると、「あいつ、何年入社なんだ?」みたいな話になる。徹底した適材適所というより、バランスを重視した調整のような人事異動をしてしまいがちです。人材の配置の肝は「会社にとって、どれが一番大事なのか」なのだから、関係者が議論して決めればいいのです。一つのポジションが空いた時に、会社中を探して「誰が一番いいんだ」という議論をすればいいだけです。メリハリのない調整のようなことをやっていてはグローバルでは勝てないですね。

仲川 弊社の場合は、かなり変わりました。かつて、ホールディングスがあって事業会社があった時は屋上屋みたいになっていましたが、それが一つになって無くなりましたので、かなり階層が少なくなりましたね。

働き方改革を推進する経営者は
強さと良さの両方を持つ

仲川 日本の体制で大変だなと思うのは、トップの指示に対して「イエス」と言いながら、やらない人が結構いると感じます。その「やらない」にも2つあって、1つは「できない、実力がない、実行力がない」、もう1つは「やりたくない、面倒くさいことはしたくない」。この2つだと思うのですが、「やります、やります」と言って、もう時間ばっかり経って、結局できないということになる。欧米だとそういう人は、すぐに解雇されます。みんな自分で勝負しているので、そこがやっぱり大きな違いです。

八木 結果に責任を負うCEOが議論を尽くした後に「会社としてこれをやろう」と決めた時に、なぜ、一緒にやろうとしない人を外さないのか。私はこれが不思議でなりません。それを言うと、「日本は特殊で、クビにできない」と言います。日本は特殊だからといって、本当にそのままでいいのでしょうか。外にいっぱい競争相手がいるのに、チーム一丸になる体制を作らずにグローバルで勝てるわけがない。

 別に1,000人のうち200人を解雇せよと言っているわけではないのです。一番チーム一丸を阻害している人にお引き取りいただくか、少なくともポジションを外せば、メッセージは伝わるものです。

佐藤 日本企業の経営トップには、グローバルで勝つための強さや覚悟が欠けているということでしょうか。

仲川 そうですね。日本で成功している会社っていっぱいありますが、そういう会社を見ていたら、経営者がすごく強いリーダーシップを持っていて、それが下まで浸透しているというのがあると思いますね。

八木 私は、経営には強さと良さの両方が必要だと思っています。良い経営だけで勝てるほど甘くない。だけど、強いだけで勝てるかというと、それも違う。インターネットの時代には企業や経営者の活動は簡単には期日の下に晒される。良さをもっていないと人は受け入れてくれないし、強さがないとグローバルレベルの激しい競争を勝ち抜けない。そんな時代が、もうここに来ているのです。

仲川 改革の推進には「人間力」が必要だと思います。それがないと人はついてこない。強さと人間力の両方がないと人を引っ張っていけないのかな、というのは思います。

八木 強さと良さの両方を持つ経営と言いましたが、変革は、トップ1人でやらなくていいのです。「何のために人事部を置いているのですか?」。人事部は、もちろん採用もしないといけないし、社員の意識づけも、評価もしなければなりません。しかし、チームを作り、チームを一丸にするのに力を発揮するのも人事だし、チームワークを乱す人たちに対してアクションを取るのも人事です。それが私は人事のプロフェッショナルだと思います。そういうことができるプロフェッショナルをトップの右腕、左腕としてちゃんと育てなくてはなりません。

八木洋介(やぎ・ようすけ)
株式会社people first代表取締役。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。17年より現職。経済同友会幹事。現在、東証一部上場企業などのアドバイザーを務めている。著書に「戦略人事のビジョン」。活発に講演活動を行い、雑誌などに記事多数。