レイヤーズ・コンサルティングは、1983年に設立した日本発の独立系のコンサルティングファームです。本連載では、企業が直面している経営課題に対し、第三者として客観的に分析するとともに、これまでの経験と今後の潮流をふまえ深く考察していきます。

 初回のテーマは「働き方改革」です。戦略人事の第一人者でありダイバーシティ推進に取り組むpeople firstの八木洋介氏と、長年の海外駐在経験をもとにCIOとしてグローバルにIT人材活用に取り組まれているコニカミノルタの仲川幾夫氏に意見を交換し合ってもらいました。今、日本企業に求められている「働き方改革」について、本質的に何を変えていくべきなのか? その変革を実現するために何が必要なのかについて、前後編の特別対談でお届けします。

●聞き手|佐藤隆太(レイヤーズ・コンサルティング)

政府が推進する「働き方改革」で
生産性は向上するのか

佐藤隆太(以下、佐藤) 日本の労働生産性は、世界各国と比較して「非常に低い」と以前より言われています。この原因は何だとみていますか。また、政府が推進する「働き方改革」で生産性は向上するものなのでしょうか。

八木洋介氏(以下、八木) 日本の大企業のほとんどが、未だに年功序列、終身雇用、それから職能資格制度という昭和30~40年代の制度を使い続けています。これでは生産性は上がりません。その仕事に必要のない人材だと本当はわかっていながら、その人を昇格させていく制度だからです。

八木洋介(やぎ・ようすけ)
株式会社people first代表取締役。1980年京都大学経済学部卒業後、日本鋼管株式会社に入社。National Steelに出向し、CEOを補佐。1999年にGEに入社し、複数のビジネスで人事責任者などを歴任。2012年に株式会社LIXILグループ 執行役副社長に就任。Grohe, American Standard, Permasteelisaの取締役を歴任。17年より現職。経済同友会幹事。現在、東証一部上場企業などのアドバイザーを務めている。著書に「戦略人事のビジョン」。活発に講演活動を行い、雑誌などに記事多数。

 日本の生産性はアメリカやドイツに比べて40%ほど低い状態です。「あー忙しい、あー疲れた」と、長時間働いているように見えますが、実際は無駄な仕事だらけ。挨拶といえば「お疲れさま」。こんなことをやっていたら、グローバルで勝てるわけがない。

 日本的経営の象徴と言われた、これらの制度や仕組みが生産性向上の足を引っ張っていることはみんなわかっています。でもやめられない。

 その中で、政府が「働き方改革」を推進している。ここでは「長時間労働」の改善に主眼が置かれてしまっています。働き方改革の本丸は、「無駄なことはやめよう」「より効率的に仕事をして、高いプロフィットを上げよう」というところに置くべきです。

仲川幾夫氏(以下、仲川) 日本で言われている「働き方改革」が残業規制や時短を意味するなら、欧米から考えると「働き方改革」以前のことを言っていることになります。それより、「生産性の向上」、それによって得られる「創造性の向上」、究極的には「事業の持続的な成長」への貢献が無ければ企業にとっては意味がありません。

仲川幾夫(なかがわ・いくお)
コニカミノルタ株式会社常務執行役。デジタルワークプレイス事業部・IT企画部(CIO)・DXブランド推進部を管掌。ミノルタ株式会社に入社後、海外営業に携わり、香港、米国の販売会社駐在を経て、2003年にはコニカミノルタUSA上級副社長として、コニカミノルタUSA販社の経営統合を推進。米国で買収した米国上場企業の会長職を経て、2009年にコニカミノルタホールディングスUSA社長、2011年にコニカミノルタ中国社長、2014年にコニカミノルタ欧州社長兼本社執行役を歴任。2018年4月より現職。

 働く人々のEngagementを向上させ、生産性を上げ、想像力を発揮できる時間を作っていくこと、国内だけでなくグローバルで人材を獲得し、育成することに目を向けていかないと日本のグローバルでの競争力はますます遅れをとっていくことになると思います。

 ドイツに住んでみてドイツの生産性は高いことを実感しましたが、仕事の目的が明確で、役割・責任も明確であるからこそ、決められた時間内でOutputも出せて、休暇もしっかり4週間取ることができるのだと思います。

八木 政府から出てくる資料が「長時間労働の是正」や「非正規社員の問題」に偏っていて、「そういうものを社員のためにもう少しクリーンにしていこう」という話になっている。社員の視点から見たそういうアプローチが別に悪いことだとは思わない。だが、産業界の人たちは社員視点の「長時間労働の是正」「残業削減」だけではなく、企業として「働き方改革」を経営に生かしていくという視点をもっと持たなければならないと思っています。

 産業界にいる人たちは、「本質的な働き方とは何だろう」というのを、自分たちの頭を使って、その「本質的なところを掴まなければダメだ」と、私は言っているのです。「働き方」を改めて生産性を上げるにはどうすればいいかと考えれば自ずと答えは出てきます。