グローバルの視点で
人材を活用することに尽きる
佐藤 「働き方改革」、さらには「生産性の向上」において、多様性や創造性のある職場づくりのためのダイバーシティへの取り組み、生産力強化のための人材育成・開発も重要なテーマの一つかと思います。例えば、デジタル戦略という側面で日本企業が取り組むべき課題についてはどうお考えですか?
株式会社レイヤーズ・コンサルティング 事業戦略事業部 マネージングディレクター。消費財、流通、情報・通信、ヘルスケア業界等の上場企業を中心に、事業戦略、マーケティング戦略、営業改革、新規事業開発、M&A戦略、組織改革のプロジェクトを責任者・リーダーとして多数手がける。
仲川 日本企業は日本だけを見ているのではなく、グローバルでの視点で人材を活用しないといけないと思います。私はアメリカやヨーロッパ、中国の人も含めてマネジメントする立場にあります。したがって、適材適所という面で見ると日本ではなく、ITやデータというとやはりアメリカやインドになる。そういう人材をもっとグローバル視点で見て活用していかないと、日本だけ見ていたら競争力は上がっていかないと思います。
八木 「分け隔てなくベストな人材を使う」。それがグローバル化です。それに尽きます。なぜ多くの日本企業は相変わらず日本人ばかり使っているのでしょうか。日本側は、英語ができないし困るから日本人がいた方が便利だって思って送り込むが、現地では「日本人のスパイが来た」と思っている。それでは信頼感のある経営はできない。私が言う「グローバル」は、いろいろな人がいる「ダイバーシティ」(多様性)を活用して分け隔てのない経営をすることです。
仲川 「ダイバーシティ」は欧米や中国では当たり前のことで、日本に帰ってくるまであまり意識したことがありませんでした。グローバルでの人材獲得、育成、人材開発も日本企業にとって、必須のことです。日本だけでDX人材の獲得は難しく、グローバルで適材適所を考えてみるべきだと思います。
八木 グローバルの観点で見て、ポジションに最適な人材がアメリカ、ヨーロッパや中国にいるなら、その人たちを雇用し、分け隔てなく活用する。こんな当たり前のことを、なぜやらないのか、不思議でなりませんね。
仲川 私がドイツでIT・デジタル人材を採用しようとしたときの話です。ドイツはワークス・カウンシル(労使協議会)があるのでなかなか人を解雇できなかったりする。そこで、たとえばチェコ共和国でM&Aした会社でIT・デジタル人材を採用し、その人材を活用してドイツ社内のITもカバーしていくようなこともやりました。
日本でも同じようなことをやろうと言っています。インドの子会社のIT人材が非常に優秀で、そこで人材を採用して、日本のITもカバーしてもらってはということを言っています。そういうことをしていかないと、日本だけでIT・デジタル人材を集めようとしても非常に大変で、無理があるのです。
働き方改革は
自分ゴト化して本気で推進する
佐藤 働き方改革を推進していくには、自分たちの働き方に対する従業員の考え方、思想を変えていかなければなりません。グローバル競争力を高めるために、多くの企業が次世代リーダーの育成や社員教育に力を入れています。これについて、コニカミノルタ独自の考え方や具体的な取り組みについて教えてください。
仲川 もちろん強力なトップダウンとリーダーシップも必要条件ですが、関係者を巻き込んで、皆に自分ゴトと思わせて推進しなければ長続きしません。
当社では、2015年からGlobal Engagement Survey(GES)を行っており、その結果に対する取り組みは、ヨーロッパで言えば、約30カ国それぞれで自分ゴトとして、フォローされています。
コニカミノルタでは2013年に持ち株会社と事業会社を統合した際に、グローバルで欧米人も中国人も巻き込んで策定した「6Value」(Open and Honest, Inclusive and Collaborative, Passionate, Accountable, Innovative, Customer Centric)を定着させる取り組みが始まっています。このうちOpen and Honest、Inclusive and CollaborativeでGESに真摯に向き合って、対策を取っていくさまざまな取り組みが行われています。
「Guiding Principlesという原理原則に適っていれば、現場で物事を決めてもいい」と日本の経営者は海外に向けても発信しています。ヨーロッパには約30カ国に会社があるのですが、言葉も違う中で、すごく浸透していてびっくりしました。「6Value」が隅々まで浸透し、みんなが自分ゴトとして理解している。すばらしいことだと思っています。
八木 本気だったから浸透したのだと思いますよ。だって、どこの会社だって「Value」はよく似ています。違いは、本気かそうじゃないかです。コニカミノルタさんの経営陣は自分の個性をしっかり出して経営されている。言ったことをちゃんとやる。
グローバル=ダイバーシティと言えます。ダイバーシファイした組織のいちばんの危険性はバラバラになること。バラバラにしたくなければ、共通のビジョン、共通のミッション、共通の戦略、共通のバリュー、そういうところできちんと同じ基盤を作って、その上にダイバーシティを乗っけないとおかしなことになる。そこをきちんとわかっている会社かどうかということだと思います。
佐藤 そこまで浸透させた具体的な施策はあるのでしょうか。
仲川 アンバサダーというものをそれぞれの国に作りました。その人たちがとにかく「6Value」を浸透させるために働く。人事部門の人だったりマーケティングの人だったり、国によって違いますが、とにかく彼らのミッションは「6 Valueをそれぞれの国で浸透させる」こと。それが一年目でうまくいった国もあれば、なかなかうまくいかなかった国もありますが、ヨーロッパの場合は成功事例をみんなで共有して、「こういう活動をしていったら浸透する」というのが広がり、割とうまくいったのかなと思っています。
佐藤 「目標に対してどうか」ではなく、「6Valueでどうだったか」と、目標設定や評価基準もグローバルで統一されていたということですね。
八木 よく「企業文化は簡単には変えられない」と言う人たちがいますが、「経営を文化にするな」と言いたいですね。文化というと「伝統を守って」となる。しかし、われわれは環境が変化する中で、お客さまに受け入れられる商品を作って売っている。どんどん変化する環境に適用しようと必死に努力しているわけです。
「文化」とは、戦略を実現するための企業風土です。環境が変わって戦略が変わったら企業風土だって当然変えなければならない。だからそれを「文化」というから、「文化を変えるのは難しい」とか言い始めるのです。「文化」なんて、変えるのは何にも難しくない。グローバルで勝ち続けている会社は、やっているのですから。
後編「階層はもう不要、グローバルで勝てる働き方改革とは」につづく
<PR>