【3】20億円の役員報酬は多すぎるか

 ゴーン元会長は、役員報酬を過少記載した事実は認め、その理由を「従業員のモチベーションに影響しないように配慮した」と供述しているようだ。巨額報酬に対する批判(フランス政府も含む)への配慮や節税の目的もあったと思われるが、これ自体はただちに違法とはいえない。

 海外の豪邸を海外子会社に買わせたことも、現金報酬を抑える手段としてはありうる。疑惑の指摘されている2011~15年のゴーン会長の現金報酬をルノーと合算すると、年平均1460万ドル。GM(1450万ドル)とほぼ同じで、フィアット=クライスラー(4060万ドル)やフォード(2440万ドル)よりはるかに低い。

 特にフォードはゴーン元会長にCEO就任を打診したといわれており、それを防ぐためなら実質的に2000万ドル(約20億円)出すことは合理的だ。「これぐらい払わないと優秀な人材は採れない」という彼の主張にも一理ある。

 1999年に彼がルノーから派遣されたとき、日産の負債は2兆円で債務超過の危機に瀕していたが、今の時価総額は約4兆円。20年間に4兆円の企業価値を生み出したとすると、累計200億円の役員報酬でも0.5%だから、不当に高いとはいいきれない。

 CEOを生産要素と考えると「他のCEOでは実現できない企業価値をどれだけ生んだか」が問題になるが、これは日産の経営問題であり、合法であれば検察が出てくる必要はない。容疑の本丸は所得税法違反(役員報酬の過少申告)だと思われるが、ゴーン元会長のような大富豪が課税を最適化するのは当然である。

 このような「クリエイティブ・アカウンティング」は、グローバル企業の経営者の重要な仕事であり、法人税も海外子会社に分散するのが常識だ。こういう問題は税務当局と納税者の解釈がわかれることが多いので、勧善懲悪でも陰謀論でもなく、事実と法律にもとづいて判断すべきである。