1885年の建学以来、「實地應用(実地応用)の素を養う」という精神に基づいて進化を続けてきた中央大学。「行動する知性。―Knowledge in Action―」を旗印とし、変化著しい時代に即した「実地教育」を今も推進している。拠点は多摩キャンパスと後楽園キャンパスに置き、10学科110超の研究室を有する理工学部は都心の後楽園キャンパスで最先端の研究を進めている。こうした研究室の連携を強化し、学科をまたいで特定のテーマに対する研究・教育を行う組織として2017年度に立ち上がったのが、「研究教育クラスター」だ。

「クラスター」とは、集団、グループのこと。もともと中央大学には、学部横断的にテーマを設定して学ぶ「ファカルティリンケージ・プログラム(FLP)」があり、学生の視野を専門分野以外にも広げて実社会の複合的な課題に取り組むことが奨励されていた。理工学部の中にも以前より学科をまたいだ研究グループが多く存在していたが、その中で、データサイエンス・AI、防災・減災、ロボティクス、感性工学・認知科学という活動規模の大きい4分野についてこのたび「研究教育クラスター」が発足した。研究の連携を強化し、高度な技術と課題解決能力を有する人材を養成することがねらいだ。

ロボティクスクラスターに属する梅田和昇教授、國井康晴教授の2人に話を聞いた。
 

ロボット研究の範囲は広い

人口減少と超高齢化の進む現代の日本では、介護・福祉、社会インフラの維持、災害対応といった幅広い分野においてロボットの活用が期待されている。

「クラスターを通じて、ロボット分野で活躍する研究者の連携を強化し、可視化していきたい」と話すのは、精密機械工学科の梅田和昇教授。「知的計測システム」の研究を専門とし、画像処理の技術を生かして、ロボットの視覚を扱う「ロボットビジョン」など、ロボット制御技術、計測技術の研究を行っている。

中央大学 理工学部 精密機械工学科 教授
梅田 和昇 氏
博士(工学) 東京大学
専門分野:知的計測システム

「ロボット技術は、ありとあらゆる分野にわたるもの。学科をまたいでほかの研究者と組む意義は大きい」と、電気電子情報通信工学科の國井康晴教授も同調する。國井教授の専門は「知能遠隔制御の技術」で、惑星探査や災害時など人が介入できない環境で活動できるロボットの研究をしている。

中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 教授
國井 康晴 氏
博士(工学) 東京大学
専門分野:知能遠隔制御技術

「離れた場所にいるロボットの操縦だけでなく、人とロボットがどうやって距離や時間を超えて協調できるかについて研究している」という國井教授が、「たとえばその中で画像を処理する技術が必要となると、画像処理のスペシャリストである梅田先生に相談する」と梅田教授に水を向けると、「多彩な分野で研究を進めるクラスターのメンバーが技術を持ち寄って研究を深め、いろいろなものを作っていくことができる」と梅田教授も応える。
 

多様な研究成果を組み合わせて生まれるもの

ロボティクスクラスターの協力体制は幅広い。共同研究から、共同での学会活動、毎月の定期的な情報交換といった緩めのつながりまで、クラスターの活動は早くも広がりを見せている。

2019年度中央大学共同研究プロジェクトとして採択を受けたのは、ロボティクスクラスターのメンバーである新妻実保子准教授の「人と産業用ロボットの協働作業の実現とその相互作用の評価に向けた基礎研究」だ。

人と産業用ロボットがどのようにしたら安全に、かつ生産的に協働作業を行えるかというのがテーマ。人とロボットが同じ空間で作業するときに、ロボットの作業工程と人の作業とが衝突しないか、衝突のリスクはどれほどあるかといったことを考慮しながら、ロボットの適切な役割を考える研究だ。研究にあたって必要となる技術は、人とロボットの動作を観測するセンサーの技術、ロボットを制御する技術、ロボットが自律的な意思決定をするための技術、疲労を含む人の作業状況を評価する技術など、多岐にわたる。ロボティクスクラスター研究体制全体で取り組む意義は大きい。

また、現在JAXAとともに行っている宇宙探査のプロジェクト「異種・複数小型ロボットを用いた確率的領域誘導による環境探査システムと要素技術の検討」も、ロボティクスクラスターのメンバーである國井教授と中村太郎教授の共同研究が始まりだ。さまざまな種類のロボットがお互いに協力して動くシステムを作ることで、探査の新しい方法を模索する。

「宇宙でも、地上でもいいのですが、あるエリアの中にあるものを何か探しているとします。それを検知するために、小さなロボットを使うだけでなく、跳躍するロボット(ローバ)をリーダー機として使い、広いエリアの探査を効率的に進める。そのためのアルゴリズムを作っています」と國井教授は紹介する。

JAXAと共同開発した月惑星表面探査ローバ実験機と
学内屋内砂上実験環境

そのほかにも、東京オリンピックに合わせて開催される予定のWorld Robot Summit(WRS)本大会を前に行われた2018年東京大会にて、競技の一つであるロボティクス技術を活用して未来のコンビニエンスストアを実現することを目的とした「フューチャーコンビニエンスストアチャレンジ」にも参加しているという。
 

研究を通じて、実地応用の素地ゆたかな学生を育てる

「研究教育クラスター」という名称の示すとおり、「研究の中で学生を育てていく」と強調するのは國井教授。「教員が協力して研究を進めていく中で、学生たちにもテーマやチャンスを提供する機会が生まれる。研究が分野を超えてつながることで、教育の機会も増えていくということです」

梅田教授も、「連携を通じて学生に対しても垣根を超えたフィードバックができる。学生がほかの研究室の研究発表を聞く中で幅広い知見を得るという教育効果もすでに出始めています」と同意する。「さらにそこから一歩進めて、今後はクラスターとしての教育プログラムを作ろうとしています。分野横断的な研究の中で培うスキルは、将来社会で通用するスキルになります」

車載を目的として企業と共同で研究開発している
魚眼ステレオカメラ

両教授が声をそろえるのは、「研究を通じて教育を行う」というクラスターの理念だ。電気電子情報通信工学、精密機械工学、情報工学といった学科の枠を守って基礎的な教育を確実に提供しながら、変化の激しい社会の要請に応える学科横断的な枠としてのクラスターを用意している。

「ベーシックな研究の上に応用としてのクラスターがあり、そこで多様性を吸収していく」と話す梅田教授。実社会で要求される複合的な課題に取り組む「実地教育」の精神はゆるぎなく、形を変えながら続いていく。

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