「ひろめ市場(いちば)」(高知県高知市)は不思議な空間だ。初めて訪れた旅行者は、面食らい、あっけにとられることだろう。
ビニールシートのカーテンをくぐり抜けて中に入ると、照明は薄暗く、通路は狭くて迷路のようだ。魚屋や肉屋、花屋があるかと思えば、洋服や小物を売っている店、ゲームセンターもある。店構えはどこかレトロ感が漂い、懐かしさを感じさせる。
市場の中には広場が2つあって、それぞれが屋台村となっている。かつおのたたき、焼き鳥、お寿司、ラーメン、たこ焼き、カレー、スパゲティ・・・、たくさんの料理店が並び、「なぜ、こんなに人が集まっているんだ!?」と思わずあとずさりしてまうほど、大勢の客で賑わっている。
客層は実に広い。お年寄りや主婦、宴会をしているサラリーマン。若いカップルもいれば、夕食をとっている子供連れの家族もいる。通路で鳥の唐揚げをぱくつき、おしゃべりをしている女子高生もいる。
特定の年齢層が中心というわけではなく、あらゆる世代がいる。高知の老若男女が全部ここに来ているかのようなのだ。
商店街活性化のための起死回生のアイデア
ひろめ市場がオープンしたのは1998年10月のこと。オープン当初から話題になり、多くの高知市民が押し寄せた。「すぐに飽きられるだろう」という声もあったが、人波は衰えなかった。
今や、地元の人にとっては、なくてはならない場所として定着し、県外からも多くの観光客がやって来る。来場者は、平日には約1万人、土日には3万~5万人に達するという。年間で約200万人がやって来る四国有数の人気スポットである。
ひろめ市場の発案者は、当時、帯屋町2丁目商店街で振興組合の理事長をしていた岩目一郎さんだ(ひろめ市場は、帯屋町2丁目商店街の外れにある)。
ひろめ市場は、商店街活性化の方策の1つとして誕生した。その経緯は、以下の通りである。
岩目さんは、客足が減り、寂れつつあった商店街を活性化させるための起死回生策を考えていた。「市から助成金などをもらっていましたけど、お金をもらうようになっちゃおしまいだなと思っていました。商売人は自分でお金を稼ぐのが使命ですからね」