望月製紙(高知県土佐市)がつくる「羽二重」は、まさに常識破りのトイレットペーパーだ。

 まず、その柔らかさ。スーパーマーケットやドラッグストアで売っている一般的なトイレットペーパーとは、触った時の感触がまったく違う。「ふわふわ」という言葉がぴったりするほど軽くて柔らかく、肌触りが優しいのである。

ギフト用にラッピングされた「羽二重」ロール

 また、価格も常識破りだ。スーパーの安売り商品は、1ロール当たりの値段が50円を切るのが当たり前。店によっては20円を切るものすらある。ところが羽二重は1ロールが300円近くもする。日用品としておいそれとは買えないような高額商品なのだ。

 最も常識破りなのは、購入する人の目的かもしれない。世の中でトイレットペーパーを買う人は、まず間違いなく自宅(もしくは自分たちの会社や店など)で使うためである。ところが羽二重は贈答品として購入する人が多い。なんとトイレットペーパーをお中元、お歳暮として、お世話になった人に贈るのである。

「柔らかいって言われるのにひりひりするやないか」と開発に着手

 そんな超高級トイレットペーパー「羽二重」を開発したのは、望月製紙の4代目社長、森澤良水さんだ。 

 四万十川、仁淀川といった清流が流れる土佐は、古くから和紙づくりが盛んだった。望月製紙はその地で、昭和初期に手すき和紙づくりで創業した。

 「2代目社長の時からトイレットペーパーをつくっていて、当時から『柔らかい』という評判をいただいていました。けれども、ごく普通のパルプを原材料にして、安くつくっていました。特に柔らかさを追求していたわけではありません」(森澤社長)

羽二重は柔らかさとしなやかさを兼ね備えている

 転機となったのは、2000年頃だ。森澤社長が体調を崩して、頻繁にトイレに行く時期があった。「おしりをひんぱんに拭くものだから、痛くなってきたんですよ。うちの商品は『柔らかい』って言われるのに、ひりひりするやないかと。そこで、どうせならとことんこだわって柔らかい紙をつくったら面白いんやないかと思ったんです」

 安売り合戦の中で利益を上げて生き残っていくためにも、望月製紙ならではの特徴ある商品の開発が求められていた。