早稲田大学大学院経営管理研究科(通称WBS)は、社会の急速な変化の中で、実践的な知識を創り出し、学びのコミュニティを通して、将来のビジネスリーダーを育てることを目的としている。
早稲田大学第一文学部教育学専修を卒業。株式会社オリエンタルランドに入社。 運営本部セキュリティ部に所属し、テーマパークの時間帯責任者を務める。その後、時間帯責任者を統括するユニットマネージャーを経て、2014年10月より人事部にて制度策定などに携わる。 2015年4月から2年間、社内の人事制度を利用しWBSで学ぶ。運営本部パークサービス運営部に所属し、東京ディズニーシーパークエントランスのエリア責任者を務める。
ビジネスリーダーとして活躍するプロフェッショナルは、他の組織構成員とは異なる次元の視点を持たなければならない。こうした視点を得るために必要なのは、組織・業界・地域に特有のローカルな知識でなく、グローバルスタンダードである経営知識だ。WBSではゼミ形式での濃密なディスカッションの機会を経て、高度な専門知識と実践的なスキルを養う。
株式会社オリエンタルランドのパークサービス運営部で働く石川睦子さんも、WBSを修了したひとりだ。現在は、東京ディズニーシーのエントランスを管理するチケットレセプションのユニットの責任者(ユニットマネジャー)。アルバイトキャスト150人、時間帯責任者(スーパーバイザー)7人を束ねている。
「器が足りない」
新卒で入社した石川さんが自分の仕事のやり方に限界を感じたのは、約200人のメンバーを指導・育成するユニットマネジャーの職に就いた7年目。テーマパークの日々のオペレーション業務に追われる中で、人を指導する立場に立つにはまだ自分の「器が足りない」と感じた。
「経験だけではなく、実務が直面する本質的な課題を体系的に学ぶことで、もっと人に寄り添える人間になりたいと思った」
そのころ、杉浦正和教授の『「つまるところ、人と組織だ」と思うあなたへ』という本を読んだ石川さん。モチベーションやリーダーシップについて書かれた内容に感銘を受け、「自分の問題意識とドンピシャだった。杉浦先生のゼミで学びたいと強く思った」と、WBSへの入学を決めた。希望通り、在学中は杉浦教授のゼミに入ることになる。
視点を変える
石川さんは、企業派遣の形で、昼は会社での業務、夜に通学という2年間を過ごした。両立は大変だったが、当時配属されていた人事部門の協力も得て、実務との連続性のある学びになったという。
杉浦教授のゼミで書いた論文もそのひとつ。パフォーマンスの高いスタッフをいかに育成するかというテーマだった。「経験学習」をベースに、会社での取り組みについて調べながら社内のスーパーバイザーにアンケートを取り、まさに実務と学習とを架橋して論文を書いた。
履修した授業の中にも、その後の石川さんの働き方に影響したものがある。「組織における人間行動」(北垣武文教授)では人・組織と戦略の繋がりを理解し、ケーススタディで学んだ「戦略的人材マネジメント」(大島洋教授)では、組織のあり方とスタッフのモチベーションを上げるアプローチを自分や自社の事として考えることができるようになったという。
「答えを出す正解探しではなく、自分はこう思うからこうしたい、という思いを伝える場所だった。経営者の視点で物事を考えることを学んだ」
大学院通学を経て、「仕事のやり方が大きく変わった」という石川さん。特に「考え方や人への伝え方が変わった」という。
「もともと新卒で入社したたたき上げだったので、1から10まで自分で把握していたし、しようとしていた。しかし今では、自分ですべてを知って動くというより、メンバーを信頼して、答えをメンバーから引き出しながら動いてもらうことができるようになった。人材育成のやり方の幅が広がってきているのを感じる」
変化の中での進化
ディズニーリゾートは今年、35周年を迎える。高齢化、IT化、外国人観光客の増加など、社会の変化の中でゲスト層も変化している。たとえばこの20年で、40代以上のゲストは10%から20%以上に増えているという。
こうした変化に対応していくために、エントランスの電子化、外国人向けの翻訳機能といった試みのほか、東京ディズニーランドでのパレードの観賞席の抽選の開始など、ゲストへの負荷を減らす方法も模索し、人の温かみのあるゲストサービスを継続しようとしている。
「時代の変化とともに、私たちも進化していくということを、より真剣に考えないといけない」という石川さん。
「大学院に通って、外から会社を見たときに、この会社の社会貢献に関する周りからの期待の大きさが分かった。事業の発展のため、一人一人のポテンシャルを引き出し、やりがいを持って永続的に働いてもらう環境づくりをしなければいけない」と、人の力で組織を作っていくことに意義を感じている。
自分自身と向き合う時間
石川さんが入学を考えたのはちょうど30歳のころだった。結婚も控えており、家庭との両立やその後の人生設計を考えると、「今のタイミングでの通学が適切か、年齢的にも相当深く考えた」という。
それでも、「気持ちは初めから決まっていた。人材・組織について学ばないと、人の上に立つ資格はないと思った。やりたかった」と、周囲からの後押しも受けて通学した。
今では、「大学院への通学は、遠回りにも見えたが、実際は近道だった」と振り返る。
「学ぶというアプローチは何でもいいと思う。本を読むでも、通信教育でも、何か科目を取るでもいい。ただ、通学は時間も気力も体力も使うので、おのずと、後悔しない時間の過ごし方をしようとする。自分自身と向き合う時間になる」
「少しでもチャレンジしたいと考えているのなら踏み出すべき。会社のキャリアとしてだけでなく、人生や女性としてのキャリアも考えるきっかけにしてほしい」と締めくくった。
<取材後記>
「オリエンタルランドは、人に強い組織。会社の資源が人だから、人に注力する」と、会社のカラーを語る石川さん。
「人を育て、やりがいやモチベーションを持ってもらうことで、自分も成長する。それによってこのテーマパークがよくなる。テーマパークで過ごす時間を通じて、人々の心の豊かさにもつながっていく」と語る。
スタッフのホスピタリティを重視し、人材を大切にするカルチャーの会社で、人に寄り添える力を持ったビジネスリーダーが育まれたのは偶然ではない。組織を作るのは人であるということの意味を見た気がした。
■企画トップページはこちら>>
<PR>