ビジネススクールの前身となる組織が発足して以来、40年余りの歴史を持つ早稲田大学ビジネススクール(WBS)。多様なプログラムを提供する、学生数も教員数も日本で最大規模のビジネススクールだ。実践的な知識を創り出し、グローバル時代のビジネスリーダーの養成を目指す同学では、修了生の進路も幅広い。組織でのキャリアアップのみならず、転職、起業、事業承継など、変化の道は多岐にわたる。

上坂優太 株式会社Viibar 代表取締役
1984年静岡県浜松市出身。学生時代はドキュメンタリー映画の制作に没頭。卒業後は映像クリエイターとしてドキュメンタリー番組等の制作に携わる。その後、楽天株式会社に転職し、楽天グループのマーケティングを担当。クリエイター時代の課題意識から2013年4月に株式会社Viibarを創業。

修了生の上坂優太氏は、WBSの夜間MBAコースに通い、起業を選んだ一人だ。氏が在学中に立ち上げた株式会社Viibarは、動画・マーケティング事業、動画メディア事業を手掛ける会社。動画コンテンツの供給にあたって、従来の仕組みと異なるイノベーティブな手段を打ち出しているのが特徴だ。

「いつか起業したいと考えていた」と上坂氏。
「ただ、入学時には会社の事業内容も、起業の明確なタイミングも決まっていなかった。従来の業界の仕組みを変えたいという思いや、起業の素地を身につけたいという気持ちはあったものの、どういった内容で、いつ、だれと起業するかは予想もしていなかった」
ところが上坂氏は、入学から1年で起業を決めることとなる。「きっかけになったのはWBSでの経験だった」と上坂氏は振り返る。
 

キャリアに直結するネットワークとカリキュラム

 「他にも選択肢がある中でWBSを選んだのは、そこに集まる人の圧倒的な魅力に惹かれてのことだった。また、カリキュラムも実践的だった」と上坂氏。在学中に会社を興す原動力となったのも、その二点に負うところが多いという。

上坂氏は同級生と共に、課外活動で「起業部」という勉強会を立ち上げ、毎週・隔週の頻度で起業家による講演、起業家と議論を行っていた。
たくさんの生身のロールモデルから、理論を学ぶだけでは見えない起業の生々しい話を聞くことは、「リアリティがあって、起業という刺激のシャワーを浴び続けていたようだった」と上坂氏は語る。
後に「起業部」はWBS公認の活動となり、招聘するビジネスパーソンの枠も広がってその活動は今なお活発化している。

起業のきっかけとなったのは起業部だけではない。多彩なカリキュラムの中でも特に起業に直結した講義として、上坂氏はスタートアップ・ファクトリーという講義を挙げる。
学期を通じて新規事業の作り方を学ぶこの講義では、学生が策定したビジネスプランをもとにコンペを行う。コンペで優勝するとシリコンバレーへ行ってプレゼンをすることができる。そこで上坂氏は、事前に同級生とチームを組んで、入念にプランを練り、見事優勝してシリコンバレーに渡った。このときのチームメートがViibarの共同創業者(現取締役の小栗氏)であり、作ったプランの一つが起業当初のViibarのビジネスモデルの原型となっていたのだという。

 

「卵が孵化する場所」

 「起業と言うとやはりリスクを意識する。たとえ事業のアイデアを持っていても、意識するリスクを超えるほどの熱にあてられないと、なかなか踏み切るところまで行かない」と上坂氏。
「WBSにはベクトルの違う学生たちが集まっていて、学生相互にあて合う熱量があった。アイデアのつまった卵が孵化する、器のような場所だった」

WBSは、年代も、職種も、入学の目的も異にする集まるビジネススクールだ。多様な学生が同級生となり、フラットな関係で学ぶ。
フラットな関係といっても、1学年は200人以上。講義での発言やケーススタディへの取り組みできちんとプレゼンスを示せないと簡単に埋もれてしまう。
「埋もれないように、いかに自分のバリューを出すかを考え続ける訓練の場所だった」と上坂氏は振り返る。
「同窓生の熱にもあてられ、切磋琢磨の期間を経て、起業に踏み切った。タフになったし、そのときに得たネットワークには今でも支えられている」

起業の際には講師陣の知見も大いに巻き込んだという。多様なリソースを環境として活用できるWBSを、「熱量が10倍で跳ね返ってくる器だった」と氏は表現する。
 

ビジネスパーソンとしての糧

 上坂氏がViibarを起業して丸4年が経つ。成長を続ける会社は、起業当初とはまた違った局面を迎えている。
「正直座学で得た知識がそのまま使えるというわけではないというのも事実。ビジネスというものは再現可能性がありそうでないということを、改めて認識している。一方で、事業の成長に合わせて直面する課題も変化していく中で、WBSで学んだフレームワークが生きている。また、教員や同窓生のネットワークを通じ、生きた知識が常に供給されるのも糧となっている」と上坂氏は語る。

起業は大きなステップだが、そこで終わりではない。「今後も会社を通じて新しい価値を生み出していきたい」と言う上坂氏の、ビジネスパーソンとしての人生はその後も続いていく。
「WBSの経験は単に起業のきっかけとなっただけではない。豊富なネットワークの中で、人間としての幅・視野を広げる良い機会だった」
「これからは人生が100年を超えた長さになる時代と言われている。自分を探索する時間を設けることには大きな意味がある。WBSはただの器ではあるが、熱量を注ぎ込めば10倍で跳ね返ってくる器だった。どう生かすかは本人次第。もし燻って迷っているのであれば、思い切って飛び込んでみるのも、それだけで価値がある。」と、上坂氏は力をこめる。
 

<取材後記>

 上坂氏は、「起業は、ものづくりの一種だと思っている」と話す。会社は価値を出していく器のひとつのあり方なのだという。
変化にも様々な種類がある。思いを事業という形にしていくのは、ゼロから新しいものを生み出す大きな変化で、そのためには爆発に近い膨大なエネルギーが必要だ。
「それだけ熱量を持った場所に入った時点で既に大きなアクションだ」との上坂氏の言葉が表現する通り、動きを誘発する熱量のある場所に身を置くこと自体が得難い経験なのだろう。


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