本流トヨタ方式の土台にある哲学について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 企業を取り巻く利害関係者との関係を表す「(その3)共存共栄」は「本流トヨタ方式」の根幹を成す考え方であり、行動規範でもあるので、詳しく説明してきました。2010年2月18日から約1年間かけて共存共栄についてお話ししてきたことになります。

 今回は共存共栄の総まとめをして、次回の「現地現物」につなげたいと思います。

「品質第一」ではお客様から見捨てられていく

 本流トヨタ方式では「共存共栄」すべき対象を以下のように4グループに分け、優先順位を明確にして取り組んでいきます。

<A> 商品を買っていただき、使っていただくお客様
<B> 仕入れ先、地域住民や行政、自然環境関連
<C> 従業員関連
<D> 株主、投資家関連

 企業が共存共栄する相手として最も優先すべきなのは、<A>の「商品を買っていただき、使っていただくお客様」です。

 企業が自由競争の中で存在できるのは、商品を購入して下さるお客様のおかげであるということは論を俟(ま)ちません。しかし、お客様の嗜好は様々です。その嗜好はまた、時間とともに変化していきます。その変化に追随して、絶えず社内の体制を変えていかなければ、お客様の贔屓(ひいき)は得られません。

 「お客様第一」ではなく「品質第一」という言葉を掲げる企業もあります。しかし、ある時点のお客様に合わせて社内で決めた出荷品質レベルを頑なに守り通していると、やがてお客様の好みから外れていき、見捨てられていきます。

 この現象は、一つひとつの商品でも起きますし、業態としても起こり得ることです。老舗の有名百貨店が撤退して、家電専門店に取って代わられる現象などもその例です。常に時代の主流商品に打ち勝つ新商品を模索し、準備していかなければならないのです。

 トヨタ自動車の例で言えば、1995年、社長に就任した奥田碩氏は守旧的なトヨタの現状に危機感を持ち、「トヨタの敵はトヨタ」「打倒トヨタ」「変わらないやつが一番悪い」といったかけ声で改革を進めました。

 この改革の流れの中で、ハイブリッドカーという全く新しいコンセプトの乗用車を開発し、採算を度外視した低価格で市場に出し、育ててきました。