中国経済は高成長を続けながらも、構造上のジレンマに直面している。

 2008年リーマン・ショック以降、中国政府は思い切った金融緩和と迅速な財政出動により、経済成長の落ち込みを阻止することができた。

 しかし、経済成長は今年の第1四半期に11.9%を記録したにもかかわらず、緩和政策の転換といった「Exit policy」(出口政策)が実施されず、市中において過剰流動性が発生し、資産インフレが大きく膨らむ羽目となった。

インフレ率が警戒水域を超えた

 2010年下期に入ってから、投機的なホットマネーは、不動産市場から農産物へとシフトされ、その結果、農産物や食品の価格は前年同期比で2ケタの上昇となった。

 そもそも中国は所得格差の大きい社会である。富裕層にとって少々のインフレは痛くも痒くもないかしれないが、人口の絶対多数を占める低所得層にとっては深刻な問題だ。食品価格の高騰は2~3カ月なら耐えられるだろうが、半年も続けば、耐えられない。

 11月のインフレ率は、5%という中央銀行の警戒水域をすでに超えている。低所得層の家計の所得は実質的にマイナスとなった。1年物の定期預金の金利も2.5%程度で、このままいくと実質金利がマイナスとなり、金融資産が大きく目減りしてしまう。

 そうなると、家計にとっては、金融資産を固定資産にシフトすることが合理的な判断と思われる。だが、資産インフレがこれ以上膨らむと、バブル崩壊時の影響が懸念される。

「高度化」せざるを得ない産業構造

 産業界を見ると、低賃金を武器に「世界の工場」の役割を担ってきた中国の比較優位が失われつつある。今年に入って、沿海部で賃上げ要求のストが多発している。労働者が自らの利益を守る意識に目覚めてきたのだ。

 この先、中国に低付加価値輸出製造業が存続するのは難しいかもしれない。この動きから考えれば、中国は産業構造を転換し、高度化せざるを得ない。