六本木交差点から徒歩1分。白を基調とした内装のお洒落なレストランの壁に映し出されたのは、黒茶色の畑に作りかけのビニールハウスという、あまりお洒落ではない光景。
この日の「ライブゲスト」として招かれた茨城県土浦市の野菜農家・山内生子さんが「業者さんに頼むとビニールハウスを立てるのに100万円以上かかってしまうんです。仲間の中でこういうことが得意な人に手伝ってもらって作りました」と話すと、店内で食事中の客からは「へぇ~、100万円もするのか・・・」と驚きの声が漏れる。
レストランの名前は六本木農園。「六本木」と「農」という、いかにもミスマッチなネーミングは、この店で働いている人の多くが、「実家は農家」という若者たちであることに由来する。
「長男である兄が後を継ぐことになっているけれど、自分も食に携わる仕事がしたい」「まだ、農業を継ぐか決断しかねている」──それぞれ事情は異なるが、両親が丹精込めて作った野菜やコメの美味しさには一家言あるし、農業という仕事の大切さは誰よりも知っている。だから、農業の面白さ・魅力を語れる場所をつくろう──と、2009年夏にオープンした。
メジャーデビュー目指せ!? 若手農家がライブでファン開拓
「農家ライブ」は、週1~2回のペースで開催する恒例イベントだ。六本木農園の仕入れ先の農家をゲストとして招き、自分が作っている農作物をアピールしたり、生産者としてのこだわりや苦労話、農業にかける熱い思いを自由に語ってもらう。
生子さんは、就農2年目の若い生産者。老人ホームで介護職員として働いていた時に、休暇を利用して「ファームステイ」体験をしたのをきっかけに、本物の野菜のおいしさ、農業の魅力に取りつかれていったという。
両親は公務員、大阪の都会育ちの生子さんが、地縁のない茨城の地で、女一人で就農するまでの経緯を楽しそうに話すのを、客たちは、生子さんの野菜で作った料理を食べながら耳を傾ける。「初めは、自分一人で切り盛りしたいから、同業の人とは結婚したくないと思っていました。でも、いざ、独立してみると、結構、苦労も多くて、最近は、同業の人でもいいかなぁと思うようになった」というガールズトークには、同世代の女性たちが、ちょっと身を乗り出して、興味深そうに聞き入っていた。
「今朝、収穫した野菜もたくさん持ってきています。皆さん、よかったら買って帰って下さいね」とライブを締めくくると、早速、客席からは野菜を買いたいという声が上がる。