自民党の石破茂幹事長は「農業所得倍増」を提唱した。4月24日に行われた自民党の農林部会では「農業・農村所得倍増目標10カ年戦略」を盛り込む方針を確認したという。これはTPP(環太平洋連携協定)による農産物自由化に対する農家の抵抗を抑えるための「つかみ金」だろう。

 1990年代のウルグアイ・ラウンドのときは6兆円の「国内対策費」を出したが、農業関係者によれば、今度は10兆円ぐらい用意されているという。日銀が輪転機をぐるぐる回して、農村にばらまくのだろうか。

「農業所得倍増」という名のつかみ金

 そもそも農家の所得はそんなに低いのだろうか? 農林水産省の統計によれば、勤労者世帯の平均年収が545万円なのに対して、専業農家は548万円である。兼業農家には勤労所得+農業所得があるので、農家の所得はサラリーマンより高い。これを「倍増」したら農家の年収は1000万円以上になり、所得格差はますます開くだろう。

 ただ「農業所得」は全農家を平均すると120万円で、確かにサラリーマンより低い。それは兼業農家の耕地面積が狭いからで、農地を集約・合理化しないと改善できない。農家の平均年齢は65.8歳で、あと20年もすれば消滅する。そんな状況を放置したまま、つかみ金を出しても一時しのぎにしかならない。

 農水省は、農家が加工や販売まで展開する「6次産業化」するとかいう夢を描いているが、「6次産業農家」なんてほとんどない。農協が生産・流通・補助金などを独占しているから、農家の経営合理化や大規模化ができないのだ。

 2011年の農業生産額は8兆2000億円で、GDP(国内総生産)の1.6%。全国の農家を合計しても、トヨタ自動車1社の半分にもならない。そんなちっぽけな産業のために、自民党がここまで力を入れるのは、農協が選挙で強い集票力を発揮する、と信じられているからだ