突然の解散で、実質的な選挙戦が始まった。序盤は、党首討論でいきなり「16日に解散する」と表明した野田佳彦首相がリードしたが、最近になって安倍晋三氏が暴走して話題を集めている。
「日銀法を改正し、2%か3%のインフレターゲットを設定する。輪転機をぐるぐる回して、無制限にお札を刷ってもらう。建設国債をできれば日本銀行に全部買ってもらうことで、新しいマネーが強制的に市場に出ていく」
激しい日銀バッシングに対して野田首相は「財政規律を失わせる」と批判し、日銀の白川方明総裁は「日本経済をインフレのリスクにさらす」と反論した。なぜ急にこういう政策が出てきたのだろうか。
「安倍バブル」に踊る市場
安倍氏の発言を追ってみると、11月14日の党首討論で野田首相がいきなり「16日解散」を言い出し、意表を突かれた安倍氏はそれに対応できなかった。日銀叩きが出てきたのは、その後に行われた講演だ。論戦で野田氏に負けたダメージを、景気のいいインフレ政策を打ち出すことでカバーしようとしたのだろう。
野党としては攻勢をかけなければいけないが、野田氏が打ち出しているTPP(環太平洋パートナーシップ)については、自民党は支持基盤の農協との関係で思い切った方針を打ち出せず、安倍氏は「聖域なき関税撤廃なら反対」という曖昧な言い方に終始している。このため、マクロ政策で勇ましいことを言って論点をずらす狙いもあるのだろう。
安倍発言を受けて円相場は半年ぶりに1ドル=81円台になり、日経平均株価は9000円台に乗せて、「安倍バブル」とも言われるにわか景気が出現した。これに気をよくしたのか、安倍氏は全国の遊説でも日銀バッシングを繰り返し、自民党の選挙公約にも「日銀法改正の検討」が入ることになった。
インフレ目標というのは、中央銀行が物価上昇率に一定の基準を設けて、それを守るように金利を調整する政策だが、日銀もFRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も採用していない。これは大国に隣接する小国が、為替レートの変動を抑えるために採用していることが多い。