旧ソ連時代から長年にわたり、ロシアは北方領土問題で「強面」対応を繰り返してきた。そんなロシアに対してわれわれ日本人は、妥協を知らないタフな交渉相手とのイメージを持ちがちだ。

 一方、ソ連邦崩壊後の1990年代から2010年にかけて、ロシアが、数十年にわたって抱えてきた隣国との国境問題を極めて柔軟に解決してきたことはあまり注目されてこなかった。

 例えば、バレンツ海の排他的経済水域境界線を巡るノルウェーとの紛争は、2010年9月に両国の条約締結で解決した。バレンツ海は、北欧諸国(フィンランド、ノルウェー)とロシアが境を接するムルマンスク地方から北極圏にかけて広がる広大な海洋である。

 また、長さ4380キロに及ぶ中国・ロシア国境の各所における国境線・領土問題は、ソ連崩壊直前の1991年5月に締結された東部国境協定を皮切りに解決が進められた。最終的には2004年10月のプーチン大統領、胡錦濤主席会談で、最後に残された極東地区のアムール川とウスリー川との合流点やアルグン川にある島々の帰属が決着し、両国間の国境は完全に確定された。

 両方のケースに共通するのは、「フィフティ・フィフティ」方式(面積等分)と言われる、係争海域や領土を半分ずつに分けて決着させるやり方と、ロシア側の意外な妥協である。

 一体どのようにしてロシアは妥協に至ったのか? ロシアとの間に領土問題を抱える我が国としては、しっかり分析しておいた方がよさそうだ。

「資源共同開発」「技術供与」の実利を取ったロシア

 バレンツ海を巡るノルウェー、ロシア(旧ソ連)の紛争は、1970年代に表面化した。

 ノルウェーは、陸地の国境を海上に向けた延長線とノルウェー領島嶼を起点にした200カイリ排他的経済水域を包含する海上境界線を主張した。それに対し旧ソ連は、北極海など極地での帰属決定方式である南北に直線的に引かれた経線を基準とする方式を主張。両国が主張する海上境界線によって帰属が争われる海域は、17万5000平方キロに及んだ。

 両国の間で係争が本格化したのは、広大な海域の漁業管理権の帰属が関係することとともに、1970年代に入ってから係争海域(大陸棚を形成)に100億~120億boe(石油換算バレル)もの石油・天然ガス資源が埋蔵されることが明らかになったためである。