カナダ銀行(中央銀行)は4月20日、主要政策金利である翌日物金利誘導水準を0.25%に据え置いた。ここまでは市場の予想通りだったが、サプライズになったのは、前回3月2日の声明文まで毎回明記してきた超低金利政策についての「時間軸」表現が削除されたことである。
前回までは、「直近のインフレ見通し次第という条件付きだが、翌日物金利の誘導目標はインフレ目標を達成するため、2010年4-6月期末まで現在の水準にとどまると予想され得る(Conditional on the current outlook for inflation, the target overnight rate can be expected to remain at its current level until the end of the second quarter of 2010 in order to achieve the inflation target.)」という記述があった。
さらに、カナダ銀行は今回の声明文に、「最近の経済見通し改善によって、そうした通常では行われない政策の必要性はいまや消え去ろうとしている。そして、金融面からの刺激の度合いを減少させ始めることが適切だ」「その程度およびタイミングは、景気・物価の見通し次第である。そしてそれは、2%のインフレ目標達成と整合的なものになるだろう」と明記した。これは、オーストラリア準備銀行(RBA)が利上げのロジックに使っているものと基本的に同じ内容であり、将来の段階的な利上げに向けた「地ならし」だと判断される。
カナダ銀行による次回の金融政策に関するアナウンスメントは6月1日に予定されている。市場ではカナダの利上げがこのタイミングで行われるのではないかという予想が増加しており、為替市場ではカナダドルが米ドルに対して堅調に推移。1米ドル=1カナダドルのパリティー水準を下回るカナダドル高の場面が目立っている。
しかし、そうしたG7メンバーで最初の利上げ開始に名乗りを上げたカナダの事例を、日本、米国、ユーロ圏(独仏伊)、英国といった他のG7メンバーにそのままあてはめるのは誤りである。それは、カナダと比べた場合、経済や金融システムの状況が非常に大きく異なっているからである。
米国では、バブル崩壊の後遺症が引き続き大きい。ユーロ圏は現在、ギリシャ財政危機への対処で苦しんでいる。英国は5月総選挙後の新政権が財政再建にどこまで動くことができるかが焦点になっており、イングランド銀行の金融政策は緩和路線の継続が避けられない。また、カナダの消費者物価上昇率は、日本とは異なって、プラス圏にある(2月分は前年同月比+1.6%)。
カナダでは、隣の米国でバブルが崩壊したことによって金融システムが被った傷は浅かった。また、資源国であるカナダの経済は、商品市況の上昇という追い風もあり、カナダ銀行の予想をやや上回るペースの改善を見せている。
国際通貨基金(IMF)は4月21日に公表した最新の世界経済見通しで、2010年の世界経済全体の成長率予想を前年比+4.2%に上方修正した(前回1月予想からは0.3%ポイントの上方修正)。うちカナダについては、2010年が前年比+3.1%(前回1月予想からは0.5%ポイントの上方修正)となっており、2011年の予想も同+3.2%という強い数字である。IMFはカナダについて、「世界危機に良好な状態で突入していたので、出口戦略は他の地域よりも困難が伴わないだろう」とコメントした。
なお、カナダ銀行による最新の同国経済成長率見通しは、2010年が前年比+3.7%、2011年が同+3.1%で、IMFよりも強気の数字となっている。
米国の構造不況、日本の慢性デフレはいずれも、利上げを阻害する要因である。カナダ銀行の声明文を材料に米2年債利回りが上昇するなどの動きがあったが、ここは国別の事情の違いを念頭に、冷静に対応したいところである。