「本流トヨタ方式の土台にある哲学」について、「(その1)人間性尊重」「(その2)諸行無常」「(その3)共存共栄」「(その4)現地現物」という4項目に分けて説明しています。

 (2)で考えている「諸行無常」とは、高邁な哲学を言うのではありません。実務担当者が直面している、「あらゆる事象が時間と共に変化してしまう」ことを言います。これは現場管理においては大変に厄介な問題です。ここでは、本流トヨタ方式でこれをどう捉え、どのように取り組んでいるかを説明しています。

 これまで諸行無常に関して、「<1>諸行無常と日本人」「<2>自分の城は自分で守れ」「<3>標準作業時間とは何か」というテーマでお話ししてきました。今回は、「<4>2007年問題は解決したか」についてお話ししましょう。

なぜオイディプスはスフィンクスの謎かけに答えられたのか

 西洋文明にも「諸行無常」の考え方があるだろうかと探していたら、 有名なギリシャ神話「オイディプス王」の中に次のような話が入っているのに出くわしました。

 <テーベの近くの小高い丘の上に、スフィンクスという名の怪物が陣取っていた。スフィンクスは「朝は4本足、昼は2本足、夜は3本足で歩く生き物とは何か?」という謎かけをし、答えられないテーベの民や旅人を懲らしめていた。テーベの王も挑戦したが答えられず、殺されてしまった。テーベは王が不在の時代が続いていた。

 ある時、勇敢な若者オイディプスが通りかかった。オイディプスはスフィンクスの問いに直ちに「それは人間だ」と答えた。正解を答えられてしまったスフィンクスは丘の上から身を投げて死んでしまった。テーベ市民は若者を讃え、王として迎え入れた。>

 2500年以上語り継がれてきたこの話の意味するところは何でしょうか。筆者は次のように解釈します。

 凡人(テーベの民)は目先のことしか考えていませんから、「謎かけ」に答えられなかったのでしょう。テーベの王は広い視野を持った人物のはずですが、そんな王をしても「謎かけ」に答えることはできませんでした。

 それにひきかえ、勇敢な若者オイディプスは、視野が広いだけでなく、長期スパンで物事を見る感覚を持っていました。だから、「人間」そのものの捉え方が違っていました。

 凡人は、人間を「2本足で活発に動き回る生き物」だとしか捉えられません。一方、オイディプスは、人間を、生まれてから老いて死ぬまでの長い時間で捉えていました。つまり、「人間は、何もできない赤子で生まれ、やがて手と足(4本足)で這い回り、成長すると2本足で歩き、走るようになる。しかし、老いると杖にすがって(3本足で)歩き、寝たきりとなって死んでいく生き物」と捉えていたのでした。だから、スフィンクスの問いに即座に答えられたのです。