民主党の小沢一郎幹事長が表舞台に登場し、政策面でも豪腕を振り回し始めた。2010年度予算への重点要望では、政府に対してガソリン税の暫定税率は維持せよという「天の声」を突き付けた。これに対し、鳩山由紀夫首相が「(暫定税率廃止の)マニフェストを守るのも国民に対する誓いだ」と記者団に語ったから、小沢は一時プッツン。結局、暫定税率は仕組みを変えて実質的に維持することで決着した。一方、首相は指導力不足を露呈し、鳩山内閣の支持率は続落。いずれ鳩山が小沢に切られるのは時間の問題かもしれない。(敬称略)
「もう鳩山首相のやってることが見てられないってことでしょ。自分が乗り出して調整するしかないと小沢さんは判断し、自分が『憎まれ役』となった」
ガソリン税などの暫定税率維持や子ども手当への所得制限導入など民主党の2010年度予算への重点要望について、小沢周辺はこう解説する。
また、自民党のある幹事長経験者は次のように語る。「福田康夫内閣で大連立が失敗した時、小沢は『民主党に政権担当能力がない』と言っていた。その民主党が政権を取ったから、小沢は党も政府も自分がやらなければいかんと思っているようだ。鳩山は危なっかしくて政権運営できないと思っているんだろう」
優柔不断の鳩山、「助け船」出した小沢
民主党のマニフェストの目玉の1つは、「暫定税率の廃止」。廃止すれば、ガソリンは1リットル当たり25円安くなるはずだった。2009年12月21日、鳩山は「仕組みはいったん廃止するが、税率は維持する」と述べ、現在と同水準の課税を続ける方針を表明。「マニフェストに沿えなかったことは率直におわび申し上げなければならない」と実質的な暫定税率維持を陳謝した。
「できないのだったら最初から言うなと言いたい」――。みんなの党代表の渡辺喜美は12月18日、暫定税率維持を求めた民主党を痛烈に批判していたが、筆者も鳩山には同じことを言いたい。
税収不足が深刻化する中、政府は財政規律の崩壊を恐れて新規国債発行額を「約44兆円以内」と打ち出した。暫定税率を廃止すれば、国と地方合わせて約2.5兆円の税収が失われる。
財源不足を補うためには、暫定税率維持というマニフェスト修正も止むを得ない――。先にこう判断したのは小沢だった。民主党関係者は「優柔不断な鳩山は何も決めることができない。だから、小沢さんが『党の要望は国民の声』と鳩山の背中を押してやった」と指摘する。鳩山が指導力を発揮せず、首相官邸も司令塔不在で何も決められないから、小沢が「助け舟」を出してやったというわけだ。
12月20日、盛岡市内で開かれた民主党岩手県連のパーティー。小沢は予算要望に関して「国債発行は最低限44兆円で予算編成するという決定の後だった。政権が決めたことを無責任に否定するような要望はやめようということだ」と強調した。
小沢が財源確保を重視し、マニフェスト修正を迫ったのは確かである。それは財務省の意向に沿う話でもあり、この政権が財務省としっかり手を握っていることを裏付ける。
ここでふと思い出したのは、民主党が野党時代に語っていた小沢の言葉だ。「野党の時の発言と、政権を取ってからの発言は異なっても別に構わない。野党時代に主張していた政策と、政権を取ってからの政策は変わっても許されるし、矛盾してもいい」という趣旨のことを、小沢はある民主党議員に平然と語ったことがある。