「理想的な形ができた」
安政馨は思わずつぶやいた。安政の目の前には量産体制に入る直前の新型「TOUGHBOOK(タフブック)CF-20」が置かれていた。背面のゴツゴツとした部分はなくなり、見た目にも薄くスッキリしている。しかも画面を外したり、回転させたりすることもできる。安政の心には「『頑丈ノートPC』の概念を打ち破ることができた」という達成感があった。
ITプロダクツ事業部
CF-20プロジェクトリーダー
安政 馨 氏
パナソニックの「TOUGHBOOK(タフブック)」は今年誕生20周年を迎える。埃や水滴をかぶっても操作でき、熱さや寒さにも強い。落としても壊れない。頑丈さが支持されて、製造現場や建築現場などで導入されてきた。
2016年3月、この頑丈ノートPCに新製品「TOUGHBOOK CF-20」が誕生した。
新型TOUGHBOOKの最大の目玉は、本体からタブレット部分を取り外して使える「デタッチャブル」であることだ。頑丈ノートPCとしては世界初※の取り組みである。
従来の頑丈さや長時間駆動、高い操作性など、“頑丈フィールドモバイル”としての基本機能はもちろんそのまま引き継がれている。さらに、企業向けとして求められる各種インターフェースの充実や拡張性、バッテリーの二重化による長時間駆動も実現した。重量は前モデルに比べて30%軽量化され、厚さは30%薄型化された。
※世界初:頑丈ノートPCおよびコンバーチブルPCにおいて(2015年12月21日現在 パナソニック調べ)
これまでのイメージを
打ち破る新製品が欲しい
頑丈ノートPCとして高い評価を受け、実績を伸ばしてきたTOUGHBOOKだが、市場ではある弱点を抱えていた。「ゴツイというイメージが定着していて、日本での導入は伸び悩んでいた」(商品企画課の西川光惠)のだ。
主幹 西川 光惠 氏
累計出荷台数は400万台を超え、世界の堅牢ノートPCの市場でトップシェアを誇るTOUGHBOOKだが、地域的な割合では、アメリカが63%、欧州が25%を占める。日本はわずかに7%でしかない。
要因の1つとして考えられるのが、TOUGHBOOKの厚さと重さだ。大きな車を乗り回すアメリカでは問題にならなくても、日本では購入を躊躇する原因になり得る。新製品はできる限り薄さと軽さを追求し、「ゴツイ」イメージを払拭することが求められた。
また、急速に高まるタブレットへの関心にも応える必要があった。個人ユースだけでなく、業務用の世界でもタブレットが普及する中、TOUGHBOOKとしてどう対応していくのか。その答えとして考えられたのが、タブレットとキーボード部分を切り離せるデタッチャブルPCだった。
さらに、ユーザーの声を探ると、意外な要望が見えてきた。当初は、切り離したタブレットを現場に持ち込み、オフィスに戻ってきたらキーボードと合体させて使うというシーンを想定していた。ところが「現場でも合体した状態で使いたい」という声が多いのだ。また、ユーザー企業の情報システム部門からは、「取り外して使って片方がなくなってしまうことは避けたい」という声も上がっていた。
西川は「そうした声に答えるには、コンバーチブルな機構を取り入れるしかない」と考えた。つまり、合体した状態で通常のPCとして使え、合体したままディスプレイ部分を回転させることでタブレットとしても使える機能だ。
こうして薄さと軽さの追求、そして「デタッチャブル&コンバーチブル」の実現が開発のゴールとなった。
さかのぼること1年以上前、「TOUGHBOOK CF-20」の開発プロジェクトが立ち上がる。プロジェクトでは、ハードウエア設計、ソフトウエア設計、機構設計などのプロフェッショナルたちが部門を横断して集められた。
着脱部の強度確保、拡張性の向上、
立ちふさがったいくつもの壁
ディスプレイをキーボードとつながったまま180度回転させて使う「コンバーチブル」は、機構的にも電気回路的にも非常に困難な設計となる。しかしTOUGHBOOKには、CF-C2、CF-19などすでにコンバーチブルを実現しているモデルがある。新型TOUGHBOOKではそれらのノウハウを盛り込みながら、新たに設計を進めた。
開発においては、新たな難題も浮上してきた。タブレットとキーボードの着脱部分の強度の確保である。
「現場で落として壊れるようなものでは、頑丈ノートPCとして意味がない」(機構設計を担当した真銅健一)
その解決策として、以前から社内で研究してきた「ダブルフック着脱機構」が採用された。前後・左右の2方向のフックを付けることで、装着時には外れにくく、着脱時には外しやすいという仕組みだ(現在、特許出願中である)。
軽量、薄型でありながら、落としても着脱部分が壊れない。その実現のためには、部品一つひとつの強度と組み立ての精度を高めることが不可欠だ。
TOUGHBOOKの組み立てを担当するのは、同社の神戸工場である。通常であれば協力会社が製造した部品を神戸工場で組み立てて、耐久試験を行う。しかし、着脱部分のテストは、何回も試行錯誤することが予想された。「いちいち神戸工場で組み立てて試験していたのでは、スピーディーな開発はできない。部品ができたら、その場で試したい」と真銅は考えた。早速、協力会社の賛同を取り付け、部品ができたらすぐその場で試験できる体制を整えた。
だが、なかなか望む結果は得られなかった。膨大な数の部品を一つひとつ見直すのは気の遠くなるような作業だ。「本体を厚くすれば強度は得られる」。真銅にはそれは分かっていた。それしか方法はないのか? 真銅は迷った。
結局、真銅は踏みとどまった。最終的に真銅の背中を押したのは、「5年後、10年後も使い続けてもらいたい」という強い想いだった。「薄さと堅牢さの両立にこだわってやり切ろう」。真銅は決意を新たに、一つひとつの部品の強度を高めるために、試行錯誤をひたすら繰り返したのである。
業務用モデルとして求められる豊富な拡張オプションの搭載も、大きな難題だった。真銅は「本体と並行して拡張オプションの開発を進めるのは、至難の技だった」と話す。
しかし奮闘の甲斐あり、新型TOUGHBOOKの拡張性はきわめて高いものとなった。USBやHDMIなどの各種インターフェースに加えて、バーコードリーダーやUSBポート、GPSなど拡張部分に装備できるオプションが用意されている。画期的なのが、これらのオプションが発売時点で提供されていることだ。
(オプションの詳細はこちらから)
予想外の使い方で驚かせてほしい
完成した新型の「TOUGHBOOK CF-20」はデタッチャブル&コンバーチブルというだけでなく、旧モデルと比べて30%軽くなり、30%薄くなった。実際に比べてみると違いは歴然である。デザインもゴツゴツした感じがなくなり、オフィスに置いていても違和感はない。
今後は、製造現場はもちろん、電気、ガス、水道といった公共の作業現場、あるいは警備などの保安現場などへの広がりが期待できる。西川は「これまでPCを持ち込むのは無理と思われていた様々な現場で使ってもらえるようになりました。欧米での使われ方を参考にしながら、国内でもお客様と一緒に適用領域を広げていきたい」と話す。
安政は「おそらく私たちが想定している以外の使い方があるはずだと思います。開発している時から、早く製品を世に出して、それを知りたいと思っていました。『こんな風に使えるんだ』と驚くような使い方が出てくるのが楽しみです」と語る。新型TOUGHBOOKが切り開く新境地に期待したい。
TOUGHBOOK CF-20
■OS:Windows 10 Pro搭載
Windows 7 Professional プレインストール済みモデル
■CPU:インテル® Core™ m5-6Y57 vPro™プロセッサー
■メモリ:4GB、SSD:128GB
■駆動時間:約10時間(Windows 10)/約9時間(Windows 7)
■その他
・90cm落下試験(タブレット部単体:120cm落下試験)
・MIL-STD-810G準拠の耐振動試験
・IP65準拠の防塵・防滴設計
■液晶:
・10.1型 WUXGA液晶(1920×1200ドット)
・10フィンガー対応マルチタッチパネル
・2cd/m2~800cd/m2の高輝度液晶
・手袋装着時でも、水滴がついてもタッチ操作可能
■質量:頑丈設計でも約1.76 kg、薄さ33.5mmの薄型軽量
(タブレット部は約0.95 kg・薄さ16.4mm)
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