「今さらこんなことを言ってすみません。でも、なんとかならないでしょうか」
TOUGHPADの商品企画を担当している浦上圭二は、プロジェクトリーダーである伊藤尚之に詫びていた。
2013年夏のことだ。浦上は、翌年初頭に発売を控え、開発が試作段階に入っていたFZ-M1に、新たな機能を追加することを切り出したのだ。戸惑う伊藤の前で、浦上はその理由を語り出す――。
主事 浦上 圭二 氏
TOUGHPADは、パナソニックが法人向けに販売する、TOUGHBOOKで培った堅牢さと、用途に応じた様々なカスタマイズ性を最大の特徴とするタブレットだ。2012年5月に初代機のFZ-A1を発売して以来、徐々にラインナップを増やしてきた。液晶画面のサイズは20型、10.1型、5型と幅広く、OSもWindowsとAndroidを揃え、これまで主に警察や電気・ガスなどの公共インフラ関連企業での採用実績を積み上げてきた。
そのTOUGHPADに2014年、まったく新しい市場に向けたモデルが追加された。それが、FZ-M1だ。7型液晶を搭載し、重さは標準モデルで約540g、厚みは18mm。OSはWindows 8.1 Pro 64ビットだ(Windows 7 Professional 32ビットへのダウングレードも可能)、バッテリー駆動時間は約8時間(標準モデル、JEITA2.0)である。
この製品の構想は数年前より練られ始めた。
小売・製造・運輸の新市場へ
新しいTOUGHPADで勝負を挑む
浦上は、アメリカ、ヨーロッパ、そしてまたアメリカと、海外出張を繰り返していた。訪問先は、これまで攻めきれていなかった、小売業、製造業、運輸業を中心とする業界だ。TOUGHPADの主戦場である米国を中心に、ひとつひとつの現場を歩きながら業務に当たる人の話を聞いて、どういった仕様のタブレットであれば受け入れられるかを探り出していたのだ。
まず、サイズ。ターゲットとなる現場では立ったまま、狭いところへ入り込んでの作業も多いため、PDAまたはハンドヘルドと呼ばれる、片手でしっかりとホールドできるサイズのデバイスが重宝されてきた。そのため、TOUGHPADもできるだけ小型化する必要がある。
しかしながら、操作の軽快さや十分なバッテリー持続時間を諦めるわけにはいかない。ヒアリングの結果をもとに検討を重ね、新しいTOUGHPADのサイズと重さを固めていく。
その結果、液晶の画面サイズは7型で重さは600グラム以下とし、ジャケットの腰ポケットや作業ズボンのサイドポケットにも入れられるようにすることが決まった。この新モデルで、3つの新しい市場を切り開くことにしたのだ。
早速、プロジェクトリーダーである伊藤を筆頭に、TOUGHPAD FZ-M1の設計が始まった。
FZ-M1 プロジェクトリーダー
伊藤 尚之 氏
設計はチャレンジの連続だった。バッテリーのサイズも、CPUやメモリー、回路を実装する基板のサイズも、10.1型液晶を搭載したTOUGHPAD FZ-G1と比べて半分程度にしなければならない。半減させる必要があるのは、消費電力も同様だ。
より高性能、つまり、消費電力の大きなCPUを採用しながらそれを達成するのは至難の業だ。しかもそれを、ファンレスで実現させる。小型のタブレットに適した新CPUをインテル社と協業して開発を進める一方で、設計担当者は、小型の筐体の中に機能を詰め込むことに心血を注いだ。
試作機が完成してから仕様変更をした理由
TOUGHPADの特徴的な機能のひとつに、ホットスワップ対応がある。ホットスワップとは、電源を入れたままで電池の交換ができるというもので、電源を落とす時間が惜しい効率重視の現場で求められる仕様だ。パナソニックが他社に先駆けて、ノートパソコン『Let's note(レッツノート)』や『TOUGHBOOK(タフブック)』の一部の機種に搭載してきた機能でもある。
ただ、今回のFZ-M1では、ほかに優先させるべきことがいくつもあったため、ホットスワップには対応しないことにしていた。
ところが、試作が始まってから、販売担当部門から浦上のところへ「ホットスワップは残してほしい」という声が寄せられるようになったのだ。
「うちのオリジナルなのに対応せんのか」
「本家本元が止めるとはどういうことや」
浦上は、ホットスワップが想像以上に評価されていることは嬉しかったが、開発陣へ仕様変更を依頼しなくてはならないことには心が痛んだ。浦上ももともとは設計担当のエンジニア。それがどれだけの負担になるかはよくわかっている。何と言って伝えたらいいのだろうか。浦上は悩みながら伊藤の席を訪ねた。そこで発したのが冒頭の言葉である。
「ほんまに使われているのか」
浦上の話をじっと聞いていた伊藤は思わず問いかけた。ホットスワップがそれほど使われ、支持されているとは意外だった。これまでの製品で自ら手がけてきた機能ではあったが、実際にどういった現場で使われているのかまでは知らなかったのだ。ただ、今からの仕様変更の大変さについては、想像するまでもない。
伊藤の疑問に対し、浦上は、自ら歩いた現場でも見聞きしていたホットスワップへのリクエストを伝える。
「セキュリティの厳しい現場では、電源を一度落とすと、手間のかかる認証をやり直すことになり、効率ロスにつながります。ホットスワップがどうしても必要な現場があるんです」
リアルな声を聞かされた伊藤は、もはや躊躇することは無かった。FZ-M1の次の試作機には、ホットスワップ用バッテリーのスペースが確保されていた。
本体の構成はシンプルに、
拡張は“ガジェット”で対応
片手で持つことを前提としたFZ-M1には、大型のTOUGHPADとは別の落下対策を施した。ノートパソコンと携帯電話を比べれば明らかなように、デバイスは小型であればあるほど、目や耳の近くで使うことが多くなるため、より高い位置からの落下の可能性が高くなる。
そこで、落下試験の高さを10.1型の120cmから150cmに引き上げ、さらに、試験に使う床材も木材の一種であるラワン材からコンクリートに変えている。この堅牢性の強化には、浦上がヒアリングをして回った企業から得た「小売の現場は床が固い」という情報が活かされた。
そしてついにデビューの日を迎えた。2014年1月、米国ラスベガスで開催された、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)のパナソニックのブースには、何台ものFZ-M1が並び、来場者の注目を浴びていた。小型の筐体に高い処理能力が詰め込まれていることに加え、TOUGHPADならではの高い堅牢性やホットスワップ機能(オプション)が、高い評価を集めた。
そしてもうひとつ、予想を超えて支持を集めた機能があった。裏面に設けた「オプション装着エリア」がもたらす柔軟な拡張性だ。(詳細はこちらから)
小売業界・製造業界・運輸交通業界の現場への切り込みを狙い、ヒアリングを行う中で、浦上は、各現場で求められるインターフェースが実に様々であることに気がついていた。小売の現場ではバーコードリーダーが求められ、また、製造の現場ではICタグの読み取り機能が求められるといった具合だ。
その話を聞いたとき、伊藤の頭に最初に思い浮かんだのは、かつて設計を担当したある製品のことだった。その製品も小型で、小売りなどの現場で使ってもらうことを前提として開発をしたのだが、求められるインターフェースをすべて標準搭載したため、液晶の画面サイズの割には分厚く、また、重いものになってしまっていた。
そこで今回は全方位的にはせず、代わりに「ガジェット」というコンセプトを採用した。ここでいうガジェットとは、別売のオプション部品のこと。本体には各業界から共通で求められるインターフェースを厳選して搭載し、各現場によって異なるニーズには、オプションで応えることにしたのだ。そのオプションを設置する場所が、オプション装着エリア。ケーブルを挿すのではなく、カチャリとケースを装着する格好なので、安定感がある。
例えば、ある現場ではここにスマートカードリーダーが、また別の現場ではLANコネクターが付けられる。FZ-M1の発売から半年以上が過ぎた時点で、そのオプションの数は、当初の4種類から倍の8種類にまで増えた。
「FZ-M1をご購入するお客様の大半が、このオプションをご利用されています」と、浦上は予想以上の反響が寄せられていることを明かす。
Celeron搭載モデルと
Androidモデルもラインナップ
現在、FZ-M1が先鞭を付けた7型液晶搭載のTOUGHPADには、同じサイズの兄弟モデルが存在している。まず、コストパフォーマンスに優れたFZ-M1 Celeronモデル、それから、2014年11月に発売されたばかりの、OSにAndroidを採用したFZ-B2だ。実はこの展開も、当初の構想にあったもの。ようやく、7型液晶搭載のTOUGHPADの布陣が整ったことになる。
「お客様からのフィードバックはこれから本格化するでしょう。今後、まずはそれに応えていきたいと考えています」と伊藤。
タブレットが必要とされる現場は、まだまだある。パナソニックは数々の現場の
声に耳を傾けながら、今後も新しいタブレットづくりを進めていくだろう。
TOUGHPAD(タフパッド)シリーズ
≪通常モデル≫
■OS:Windows 8.1 Pro 64ビット(日本語版)
(Windows 7 Professional ダウングレード権含む)
■CPU:インテル® Core™ i5-4302Y vPro™ プロセッサー
(インテル® スマートキャッシュ 3 MB、動作周波数 1.60 GHz、
インテル® ターボ・ブースト・テクノロジー2.0利用時は最大2.30GHz)
■液晶:7型TFTカラー液晶 WXGA(1280×800 ドット)
(静電容量式マルチタッチパネル(10フィンガー対応))
■ストレージ:SSD 128GB
■メモリー:4GB
■質量:約0.54kg(ワイヤレスWAN内蔵モデルは約0.55 kg)
■駆動時間:(JEITA 2.0)約8時間、(JEITA 1.0)約9時間
(オプションのバッテリーパック(L)装着時には(JEITA 2.0)約16時間、
(JEITA 1.0)約18時間)
【選べるシリーズ】
・Xi(LTE)対応ワイヤレスWAN内蔵モデル
・Windows 7 Professional 32ビットプレインストール済みモデル
≪Celeronモデル≫
■OS:Windows 8.1 64ビット
■CPU:インテル® Celeron-N2807 プロセッサー
(2MBキャッシュ、動作周波数 1.58GHz、最大2.16GHz)
■液晶:7型TFTカラー液晶 WXGA(1280×800ドット)
(静電容量式マルチタッチパネル(10フィンガー対応))
■ストレージ:eMMC 64 GB
■メモリー:2GB
■質量:約0.54kg(ワイヤレスWAN内蔵モデルは約0.55 kg)
■駆動時間:(JEITA2.0)約8時間、(JEITA1.0)約9時間
【選べるシリーズ】
・Xi(LTE)対応ワイヤレスWAN内蔵モデル
≪通常モデル≫
■OS:Android™4.4
■CPU:クアッドコアの高速CPUインテル® Celeron®N2930 プロセッサー
(2MBキャッシュ、動作周波数 1.83GHz、最大2.16GHz)
■液晶:7型TFTカラー液晶 WXGA(1280×800 ドット)
(静電容量式マルチタッチパネル(5フィンガー対応))
■ストレージ:eMMC 32GB
■メモリー:2GB
■質量:約0.54kg(ワイヤレスWAN内蔵モデルは約0.55 kg)
■駆動時間:駆動時間は約7時間
■その他 TOUGHPAD(タフパッド)ラインアップはこちらから>>
TOUGHPAD(タフパッド)の開発Storyはこちら
■「司令塔がふたり」の異常事態を乗り越えた世界初4K入力対応タブレット開発の舞台裏
「TOUGHPAD 4K FZ-Y1CH」は放送現場の期待に応えて誕生した
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■頑丈はそのままに、着脱自在で回転させても使いたい
そんな難題への挑戦が、常識を覆す頑丈ノートPCを生み出した
~デタッチャブル&コンバーチブルで軽くて薄い新型「TOUGHBOOK CF-20」誕生~
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TOUGHPADでビジネスの限界に挑む!シリーズ
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■どうする?どう守る?モバイルデバイスの情報セキュリティ
~キーパーソンが本音で語る「リスク回避の現実解」~
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