Christian - stock.adobe.com

 現代のビジネスにおいて、気候変動を含む環境リスクに対応した「環境経営」が業界問わず注目されている。世界的トレンドであるこうした企業行動は、企業規模、上場・非上場を問わず、今や逃れられない課題と言えよう。本連載では『環境とビジネス──世界で進む「環境経営」を知ろう』(白井さゆり著/岩波新書)から、内容の一部を抜粋・再編集し、気候変動リスクをチャンスに変えるサステナブル経営のあり方について考える。

 第3回では、気候変動が企業経営に及ぼすリスクを3つのタイプに分けて分析。ビジネスを持続していくため、企業がなすべきことは何かを考察する。

<連載ラインアップ>
第1回 気候変動対策として、各国はなぜ温室効果ガス排出量「正味ゼロ」を目指すのか?
第2回 世界三大格付け会社が警告、気候変動への対応力が「企業の信用」に直結する理由とは?
■第3回 欠かせないのは短期・長期の視点、現代の企業経営に重大な影響を及ぼす3つの気候変動リスクとは?(本稿)
■第4回 企業はなぜ、「バリューチェーン全体」の温室効果ガス排出量に目を配る必要があるのか(9月27日公開)
■第5回 温室効果ガス排出削減の新たな指標「削減貢献量」に企業が注目する理由とは?(10月4日公開)
■第6回 企業の環境経営を促す「カーボンプライシング」、今から検討すべきビジネスモデルの変革とは?(10月11日公開)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。

<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
会員登録(無料)はこちらから

 気候変動がビジネスにとって大きなリスクとなりつつあることを説明してきたが、ここで気候変動のリスクについて世界共通の考え方を説明しておこう。

 気候変動が及ぼすリスクは、「物理的リスク」と「移行リスク」に大別されている。これらのリスクのなかに「訴訟・責任リスク」を含めることも多いが、あえて3つ目のリスクとして分類することもある。

 物理的リスクは、「急性」または「慢性」に分類できる。急性の物理的リスクは、気候変動に関連する極端な事象によって引き起こされるもので、極端なサイクロン・ハリケーン・台風、大洪水・集中豪雨、山火事等が含まれている。一方、慢性の物理的リスクは、気候変動の長期的な変化によって引き起こされるもので、地球温暖化をはじめ、海水の温度上昇や海面上昇、頻発する熱波、変化する降雨パターンが含まれる。

 こうした物理的リスクが企業に及ぼす影響としては、工場や建物等の固定資産の損害・破壊、サプライチェーンの混乱、原材料の調達難や価格の高騰、従業員の労働生産性の低下等が考えられる。

 とりわけ農業・畜産業やレジャー・観光等の産業は物理的な気候リスクに脆弱で、食料・家畜生産の変動が激しくなったり食料・原材料不足に陥ったり、リゾートが運営できなくなって収入が減少することが既に世界中で起きている。

 移行リスクは、気候変動に対処するために導入されるカーボンプライシングやその他の規制強化によって温室効果ガス排出量の多い事業の生産コストが増加し、売上高や利益が減少することから生じる。

 また移行リスクは、技術の変化や消費者、投資家の選好がより環境に配慮したものへと変わることから生じると考えられている。例えば、低炭素な技術やエネルギー効率を改善する技術の開発が進めば経済の低炭素化が加速するが、それにより石炭火力発電所を運営する企業は競争力を失う。

 温室効果ガス排出量の多い資産を持つ企業は、カーボンプライシングにより採算がとれなくなって投資資金が回収できないまま資産価値が低下する、いわゆる「座礁資産」化のリスクを意識しておくべきである。

 消費者がより低炭素な商品・サービスを選択したり、排出の多い企業への投融資を減らす投資家が増えると、企業と産業の新陳代謝が進むが、その過程で勝者と敗者が生まれることが想定される。