現代のビジネスにおいて、気候変動を含む環境リスクに対応した「環境経営」が業界問わず注目されている。
世界的トレンドであるこうした企業行動は、企業規模、上場・非上場を問わず、今や逃れられない課題と言えよう。
本連載では『環境とビジネス──世界で進む「環境経営」を知ろう』(白井さゆり著/岩波新書)から、内容の一部を抜粋・再編集し、気候変動リスクをチャンスに変えるサステナブル経営のあり方について考える。
第1回は、進行を続ける地球温暖化の現状と、温室効果ガスの排出削減に向けた国際的な取り組みについて見ていく。
<連載ラインアップ>
■第1回 気候変動対策として、各国はなぜ温室効果ガス排出量「正味ゼロ」を目指すのか?(本稿)
■第2回 世界三大格付け会社が警告、気候変動への対応力が「企業の信用」に直結する理由とは?
■第3回 欠かせないのは短期・長期の視点、現代の企業経営に重大な影響を及ぼす3つの気候変動リスクとは?
■第4回 企業はなぜ、「バリューチェーン全体」の温室効果ガス排出量に目を配る必要があるのか
■第5回 温室効果ガス排出削減の新たな指標「削減貢献量」に企業が注目する理由とは?
■第6回 企業の環境経営を促す「カーボンプライシング」、今から検討すべきビジネスモデルの変革とは?
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観測史上最高気温が意味すること
世界では、極端な気象とそれによる自然災害が頻発し、大きな損失を地球上にもたらしている。
2023年に世界は観測史上最高の平均気温に達し、日本でも夏季に30℃を超える異常な暑さを何か月も経験した。2023年は世界的に猛暑、森林火災、干ばつが続いた。温暖化は2024年に入っても続いている。温暖化が予想以上のペースで進んでおり、地球が憂慮すべき深刻な事態になりつつあることは明確な事実である。
下の図は、1850年以降の世界平均気温を示しているが、2024年6月現在、15℃を少し上回っていることを示している。
世界では、海面上昇により住めなくなっている地域もあり、ここ数年の間に至る所で熱波や干ばつ、大洪水や集中豪雨、山火事、大規模なハリケーン・台風、南極の海氷面積の減少が起きている。ロシアのシベリア地方では、永久凍土が溶けて地中のメタンや二酸化炭素(CO2)の放出が起きており、凍土に閉じ込められていた細菌やウイルスが人に感染するリスクも高まっている。
こうした異常気象により、多くの尊い人命の喪失とともに、空気の質が悪化することで肺疾患や心臓疾患の健康被害を訴える人が増えており、高温や洪水によりさまざまな細菌やウイルス等の感染症や伝染病の拡大につながっている。生態系も大きな打撃を受け生物多様性が急速に減少し、食料生産にも打撃をもたらしている。電力・港湾・道路等のインフラ、住居、工場・商業施設等の物理的資本が破壊される事例が後を絶たず、経済や価格にも影響を及ぼし始めている。
こうした地球上の気候が変動する現象は過去170年ほどの長い時間をかけて起きており、「気候変動」と呼ばれている。気候変動が極端な気象の頻度を高め、その規模を大きくしている。
地球温暖化は経済活動が原因
間違いなく、気候変動は現代の地球上の最大の課題のひとつである。気候変動の原因には火山活動や地球の公転軌道の変化等の自然現象として起きているものもあるが、最大の原因は「人間の活動」によって引き起こされていることが科学的に明らかにされている。
人間の活動とは、製造業でのエネルギーの燃焼、生産に利用されたガスの排出、森林の伐採や農業・林業等の土地利用の変化、牛肉の大量消費生活等を指している。とくに工業化により石炭、石油、天然ガス等の化石燃料をたくさん燃焼させてCO2等の温室効果ガスを排出し、そのガスが大気に長く滞留して累積排出量が増加することで温暖化が進行している。