(左から)メディアアーティストの落合陽一氏と東京大学大学院情報学環教授の暦本純一氏(撮影:榊水麗)

 東京大学大学院情報学環教授の暦本純一氏とメディアアーティストの落合陽一氏。日本の情報工学をリードする第一線の研究者であり「師弟」の間柄でもある2人が、ChatGPTからデジタルネイチャーまでテクノロジーの劇的な変化がもたらす未来について語り尽くした一冊が『2035年の人間の条件』(マガジンハウス新書)だ。

 今回、本書の「延長戦」として、再び2人による対談が実現。その模様を前後編の2回にわたってお届けする。前編では、AIと人間が共生する社会において、ビジネスパーソンを取り巻く環境や、ビジネスパーソンに求められる能力・価値はどのように変化していくのか、というテーマで“天才師弟”が未来を語り合った。

■【前編】【特別対談・暦本純一×落合陽一】AIと人間の共生時代、ホワイトカラーはどうすれば生き残れるのか?(今回)
■【後編】【特別対談・暦本純一×落合陽一】テクノロジーの進化が変える会社組織、「棟梁のマネジメント」が必要になる理由

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環境変化をポジティブに捉えるマインドが大事

――『2035年の人間の条件』では、AIが当たり前に社会の中に浸透する中で、これからのAIと人間の関係性について語られています。私たちビジネスパーソンを取り巻く環境はどう変化するのでしょうか。

暦本純一氏(以下敬称略) 一言でビジネスパーソンと言ってもさまざまな区分がありますが、大きく変わると思われるのが、いわゆる「ホワイトカラー」と呼ばれる人々を取り巻く環境です。

暦本 純一/東京大学大学院情報学環教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所フェロー・チーフサイエンスオフィサー/ソニーCSL京都リサーチディレクター
1986年東京工業大学理学部情報科学科修士課程修了。博士(理学)。日本電気、アルバータ大学を経て、1994年よりソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。2007年より東京大学大学院情報学環教授(兼ソニーコンピュータサイエンス研究所)。世界初のモバイルARシステムNaviCamや世界初のマーカー型ARシステムCyberCode、マルチタッチシステムSmartSkinの発明者。著書に『妄想する頭 思考する手』(祥伝社)など。

 これから20~30年くらいの間に、私たちが直面するのは、産業革命に匹敵するほどの社会構造の変化です。産業革命は「封建社会の終焉」と「技術革新」の2つの要因が重なって起こりましたが、これから起こる環境変化の要因は「情報技術の革新」と「少子化」です。

 その環境変化に伴い、ホワイトカラー、つまり生産に直接従事しない管理職や事務職といった職種に就いている人の大半は、言葉を選ばずに言うと、ゆくゆくはその役割を終えることになります。

落合陽一氏(以下敬称略) その兆候は既に表れていて、最近の起業家の人たちはあまり積極的に人を雇用していませんよね。会計などの事務におけるデジタル化がかなり浸透したので、極端に言えば会社は社長1人でも成り立つようになっています。

落合 陽一/メディアアーティスト/筑波大学デジタルネイチャー開発研究センター センター長、准教授
1987年生まれ、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。一般社団法人xDiversity代表理事。2018年より内閣府知的財産戦略ビジョン専門調査委員会、内閣府「ムーンショット型研究開発制度」ビジョナリー会議委員、大阪・関西万博テーマ事業プロデューサーなどを歴任。著書に『魔法の世紀』『デジタルネイチャー』(共にPLANETS)など。

暦本 AIが普及していけば、ホワイトカラーの需要がさらに減り、ますます雇用が減っていくでしょうね。でも、変化をネガティブに捉えていては始まらない。変化をポジティブに捉えるマインドが大事だし、変化に貢献できる人は引き続き社会に必要とされるはずです。変化にポジティブな人を、AIが助けてくれるというイメージですね。

――AIが浸透した未来の社会はどうなっていくと思いますか。

暦本純一 / 落合陽一 著『2035年の人間の条件』(マガジンハウス新書)

落合 「ドーパミンカルチャー」という言葉があって、僕はこれが裏テーマになるのではないかと考えています。

 最近のコンテンツには、視聴者にいかにドーパミンを出させるかを計算したものが増えています。TikTokのショート動画や、Tinderなど右左に瞬時に画面をスクロールするマッチングアプリはその代表例です。

 今後もドーパミンを出すための学習データセットを作る人たちが影響力を強めていくようなら、みんなでドーパミンが出る方向にコミュニケーションするだけで終わる世界になっていく可能性もなくはないと思います。