OpenAIの最新AIモデル「GPT-4o」(ジーピーティーフォーオー)を筆頭に、生成AIが驚異的な進化を遂げている。一方で、2045年頃に「シンギュラリティ(技術的特異点)」が到来しAIが人間の脅威になるのではないかと懸念する声も聞かれる。人類は今後、AIとどう向き合うべきなのか──。2024年4月に著書『2080年への未来地図』(技術評論社)を出版したアスタミューゼ イノベーション創出事業本部&データ・アルゴリズム開発本部 エグゼクティブ・チーフ・サイエンティストの川口伸明氏に、シンギュラリティを迎える前に知っておくべきテクノロジーの最新動向と未来像について聞いた。(前編/全2回)
■【前編】衝撃的な進化、テスラの自動運転システムから「数十万行のプログラムコード」が消えた理由(今回)
■【後編】自ら訓練して未知の作業も修得、Google DeepMind「RoboCat」が示すAIロボットの驚くべき未来
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人類が向き合うべき「人口増大の終焉」
──著書『2080年への未来地図』では「統計解析」「データドリブンSFプロトタイピング」などの手法を用いて「未来の世界像」を描いています。「2080年」にはどのような時代が訪れるのでしょうか。
川口伸明氏(以下敬称略) シンギュラリティ(技術的特異点)は2045年頃に訪れると言われてきましたが、今では「もう少し前倒しになるだろう」と多くの専門家が予想しています。
私は、AGI(汎用人工知能)は2020年代後半にも登場し、ASI(人工超知能)が出現する2030年代後半が、シンギュラリティの始まりになると考えています。しかし、それによって世の中がすぐに変わるわけではありません。新たなテクノロジーが登場し、人々の生活やビジネスに浸透するまでには時間が必要です。
対応するデバイスやインフラの開発、法整備、生命倫理の課題などを解決し、シンギュラリティが広く文化受容されるまでには、ChatGPT以降に生まれた「AIネイティブ世代」が生産年齢人口の中核を占めるようになる2060年くらいまでかかると思います。
その後は急速にAGI・ASIの活用が進み、2080年代に入ると「ヒューマン・オーグメンテーション(人間の可能性が広がる)時代」が訪れると予想しています。
著書でも述べていますが、シンギュラリティの主語は「AI」ではありません。主語はあくまでも「人間」なのです。
「AIが人間を支配する恐れはないのか」という論点ではなく、AIやナノテク、バイオテクノロジーなどの先端科学技術を使うことで「生物学的な(脳、遺伝子、身体性などによる)能力の限界を超えられるようになった人間が何をすべきか」という問いこそが重要になります。
例えば、人間は地球に真っすぐ向かってくる小惑星を感知できませんが、AIを使えば予測できる可能性があります。宇宙からの脅威だけでなく、医療や戦争、災害、気候変動など、人間の能力だけでは解決できない問題についても、テクノロジーによって解決の糸口を見つけられるかもしれません。
シンギュラリティを迎えた先端技術を総動員して、人間が解決できなかった問題に「どのように立ち向かうのか」、さらには「どのような世界をつくるのか」「どのような未来にしたいのか」といった問いを本書で投げかけています。
そして、国連人口推計などから「2080年代後半には人口増大が終焉する」と予想されています。この頃には世界中で少子高齢化が進み、世界人口がどんどん減っていく「全地球的人口オーナス期」に入るため、今までの人口増加による生産・消費需要を前提とする社会や経済の成長モデルが通用しなくなることはほぼ確実でしょう。
だからこそ、2060年代までに登場しているはずのテクノロジーをフル活用して、全く新しい社会・経済システムを作り、人口減少後の世界に備えておかねばなりません。シンギュラリティと人口減少、これらの事態にどう備えるか、ということが本書のテーマです。