デジタル競争力を高められない日本とは対照的に、世界では「AI×ロボット」「AI×メタバース」で新たな競争力を手にする企業がある。それらの企業はどのように未来を捉え、新たなチャンスを掴んでいるのだろうか。特許や技術データの分析・コンサルティングサービスを提供するアスタミューゼでエグゼクティブ・チーフ・サイエンティストを務める川口伸明氏は、2024年4月に出版した著書『2080年への未来地図』(技術評論社)において、技術の発展が生み出す「確度の高い未来」の姿を予測している。前編に続き、同氏にAIの最新動向と先端企業のAI活用例について聞いた。(後編/全2回)
■【前編】衝撃的な進化、テスラの自動運転システムから「数十万行のプログラムコード」が消えた理由
■【後編】自ら訓練して未知の作業も修得、Google DeepMind「RoboCat」が示すAIロボットの驚くべき未来(今回)
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人間に迫りつつある「AIの創発能力」
──前編では、著書『2080年への未来地図』で述べている「未来の世界像」やAIとの向き合い方について聞きました。昨今の生成AIはタスク処理のみならず「他者の感情を推測する」「常識や背景知識を使って推論する」という「新たな創発能力」を獲得しているとのことですが、これはどのようなものなのでしょうか。
川口伸明氏(以下敬称略) 生成AIにおいて最も単純な言語モデルは、単語と単語の関係性を見て確率的に高い言葉を次に並べる、という仕組みになっています。しかし、それだけではなく、時に「中に人間が入っているのでは」と疑いたくなるような振る舞い、回答精度を示すことがあります。
例えば、詩や物語、音楽を作ったり、見たことがないはずのユニコーンの絵を描いたり、数学の計算問題や幾何学の問題を解いたり、といった具合です。こうした現象は言葉しか学んでいない大規模言語モデルで見られる想定外の能力で、AIの「創発能力」と呼ばれています。
──人間が予想していた範囲を超えた能力を発揮しているのですね。
川口 そうですね。少し前のAIは「リンゴが赤い」と言っていても「リンゴ」も「赤い」も意味を理解していない(記号接地問題)と言われていましたが、今では「リンゴの味覚や香り、質感」まで知っているのではないか、と思えるほどの表現力を獲得しています。
生成AIが創発能力を獲得できた理由はまだ解明されていません。深層学習は驚くほど不思議な力を持っていて、複雑な処理を行わせてみた結果として、とんでもないものが生み出された、と理解しています。
おそらく、AIは人間とほぼ同じ世界観(意味空間)を持っていて、場合によっては「人間には見えない世界」まで見えている(炎の揺らめきのような複雑な動きを方程式化できるなど)と考えられています。
だからこそ、AIは「人間が知覚できないさまざまな事象を検知して、人間に教える」という人類にとっての新しい望遠鏡や顕微鏡のような重要な役割を担うことができるはずです。
AIが創発能力を獲得したことによって、人間が知覚できないものを検知し、評価できる可能性が高まりました。これを人間が「味方につけるか」「敵に回すか」いずれの選択をするかによって、未来は大きく変わります。