東京大学大学院情報学環教授の暦本純一氏とメディアアーティストの落合陽一氏。日本の情報工学をリードする第一線の研究者であり「師弟」の間柄でもある2人が、ChatGPTからデジタルネイチャーまでテクノロジーの劇的な変化がもたらす未来について語り尽くした一冊が『2035年の人間の条件』(マガジンハウス新書)だ。
今回、本書の「延長戦」として、再び2人による対談が実現。その模様を前後編の2回にわたってお届けする。後編では、AIやロボットによる自動化が進み、社会構造が大きく変化する中、組織におけるマネジメントの在り方やオフィス環境はどう変化するのか、これから企業はどこに向かうべきか、というテーマで“天才師弟”が未来を語り合う。
■【前編】【特別対談・暦本純一×落合陽一】AIと人間の共生時代、ホワイトカラーはどうすれば生き残れるのか?
■【後編】【特別対談・暦本純一×落合陽一】テクノロジーの進化が変える会社組織、「棟梁のマネジメント」が必要になる理由(今回)
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「何が必要か」から「何をやりたいか」へ
――これから求められる人材像として「ブルーカラー・ホワイトカラー直列人材」というキーワードが出てきました(※前編を参照)。『2035年の人間の条件』の中には、「必要なことをAIやロボットが代替してくれる社会において考えるべきは『自分に何が必要か』ではなく『自分が何をやりたいか』だ」という話が出てきます。「黙々とハンダ付けができる」能力というのは、本書での話にも通じるのでしょうか。
暦本 そうですね。「ビジネスに有利だから電子工作しましょう」というメンタルでやってもつまらない。単純に楽しいからハンダ付けをやっているわけで、そこには有利も不利もありません。
例えばホモサピエンスの時代には、石器や矢じりを削る人がいた。彼らはその作業を有利か不利かでやっていたわけではなく、純粋に「石器をうまく削れてうれしい」という気持ちで削っていたはずなんです。今日までの人類の繁栄を考えれば、いつの時代にも手を動かして何かを作るのが好きな人がいたに違いない。そのDNAが私たち人間の中に組み込まれているんですよね。
落合 ちなみに僕は包丁を研ぐのが好きです。家でよくすしを握るのですが、包丁が良くないと美味しいすしにはなりません。だから、包丁の砥石にもこだわっています。
暦本 うちにも砥石あります。確かに砥石は必須ですよね。自宅にどんな砥石があるかで、ビジネスパーソンをクラス分けしてみたら面白いかもしれないですね(笑)。
――ビジネスパーソンの中には「やりたいことが分からない」という人も少なからずいます。自分が本当にやりたいことを見つけるにはどうすればいいでしょうか。
暦本 やりたいことが分からないのは、承認欲求が大きくなってしまっているからです。承認欲求のもっと手前の、プリミティブな欲求に従って自分がやりたいことを見つけた方がいい。
僕らが子どもの頃は、コンピュータをいじっていると「そんなことしてないで勉強しなさい」と言われました。つまりコンピュータは余計なことだった。人から余計なことだと言われても、やってしまう。純粋にやりたいこととはそういうものです。
ただ、コンピュータに対する見方は昔とは変わりましたね。今の子どもは、プログラムを書いたら「偉いね」と褒められるのかな?
落合 今の子どもたちは生成AIで遊んでいると「そんな遊びをしていないで、他のことをしなさい」って怒られます。
暦本 生成AIで作文をきちんと作れる子どもの将来には期待できますね。「そんなズルをしてはいけません」と怒られても「いい道具は使うべきじゃないですか」と言い返して堂々と使うべきかもしれない。
落合 結局、道具の上手な使い方を見つけられる人が、この世界では常に勝者になりますからね。